第14話 女神が為に歌唄う
「ここまでいけば、なんとかなるかな」
そう呟いて倒れたウチ。なんとかなってないじゃねーか。
ふと気づいたら、なんだかプラチナ色の場所にいた。
見た目はギリシャ神殿みたいなとこかな? でも柱の装飾がローマ風な感じする。全体的に大理石っぽい。白いんだけど影が黄色く見えるのは上から流れ込む光が暖かい黄色だからだ。めっさ眩しいです、はい。
ウチが立っていたのは通路のど真ん中。その横に柱がそびえ立ち、ウチの視線を奥の玉座みたいなものに座ってる人物に集中させた。
手にしている銀の杖にはライオンの頭の装飾がついている。栗色の長い髪、金の縁取りが施された白いゆったりとしたローブ、伏せがちなエメラルドグリーンの目、巨乳。
……遠いところにいるような描写なのに、よく眼の色がわかるな、なんて思ったでしょ。
この人(プラス玉座)、すんごいでかいんだわ。
一瞬で女神さまだってわかった。わかるしかなかった。
「……レグシナ、様?」ウチの知っている神様の名前を出す。違ったらごめん。
『はい。やっと話し合えますね、白川真理。』うつむきがちにレグシナ様は頷く。……ガチだこれは。ウチは今、この世界における女神様と話している。てか本名バレてる。
「やっと、とは?」女神が鬱な理由もきになるけど、今はそんなこと言ってられない。
『今まであなたと接触を試みていたのですが、なかなか上手くいかなくて。やはり睡眠時ではダメですね、意識がある時間で気絶させて引っ張ってこなければ。』え、寝てる間ずっと着信来てたようなものだったんですか。あと、炎の魔獣前の気絶はあなた様の仕業だったんですか。ど偉い人をど偉い間無視してたのかな。
「なぜ、今ウチをここに?」今一番の疑問をぶつける。レグシナ様はひるみもせず、淡々と答える。
『忠告です。』
あなたは、勇者ではない。
「いや知ってますよ。」ウチは平民希望な歌姫です。ただその成り行きで活躍を重ねちゃってるだけです。
『……』
「……あれ? 女神様、どうなされました?」突然の沈黙に恐怖を覚える。神様ってのは怒らせてはいけないと相場が決まっているんですー。
『……いえ、あなたをここに呼び込んだせいで少々力を使い果たしてしまいまして……。回復に三百年ほどはかかりますね……。』
いや、三百年もこんな何もないところにいるのは流石にないです。立体音響も伴奏石もないけど、ちょっとは元気を出させないと。
神様を元気付ける歌。ちょうど思い出した。頭に流れる曲が、周りに反響しているかのように思える。
さぁ、神がかったソロライブのお時間だよ!
「♪思い通りにいかないことだらけ どうしようもなく自己嫌悪 八百万の痛みや悲しみから 逃げ込める場所を探してる……♪」
立体音響がない分、仕草や腕の動きで表現できる幅が広がる。伴奏石に指をつけているようにと気遣う必要がない分、かなり気楽に歌える。
神様を元気付けて機嫌をとるには歌と踊りって相場が決まっているんだよね。まぁ踊りといいますかパラパラといいますか。
「♪でも そんな風に思えるってこと それは 君がもっともっと素敵になれる力があるって 教えてるんだよ……」
言い聞かせるかのように声を女神様に向ける。人間が神に言い伝え、説教じみたことをするなんて。この話、仲間のみんなにしたら、げんこつ食らうだろうなぁ。
なんて歌っていたら、『もういいですよ』と声がした。
歌っている間、ウチはもっと役にハマるために目を閉じていたみたいだ。
開けたらそこには女神様。でも表情はちょっと優しくなってる。目もそんなに伏せてない。治癒完了、かな?
『……なるほど、神にのみ干渉する回復の歌ですか。人間の生み出す歌の力には驚かされるばかりです。』
「あー、と。回復なされましたか?」顔色を伺いながら訊いてみる。
『はい。おかげさまで。』女神様スマイル、ここで炸裂。いやー美人。
「では早速で申し訳ありませんが、ウチがこの世界で募らせた質問の数々に答えてもらってもよろしいでしょうか?」ジャパニーズ敬語スキルは通用してほしい。
『構いませんよ。あなたをこの世界に突如連れて来、放り出したのが私です。責任を持ち、この世界の真実を紐解いて差し上げましょう。』
いやあんたかい。
「なぜウチはここに……この大陸に、世界に、連れてこられたのでしょうか。」
『あなたの世界は意志の力が強く、生命力も兼ね備え、異世界転移という環境の変化に対処できる人物が数多く存在します。あなたの命を奪った電車脱輪事故…本来はその事件の犠牲者から勇者、この世界に降りかかるであろう悲劇を食い止める力をもたらす人物、をこちらへと引き込むつもりでしたが、私の手違いにより、すぐ隣に座っていた女性、あなたですね、を引き込んでしまいました。』
あのときウチの隣にいた人って中学生男子っぽかったぞ。そんなやつに世界っていうでかい荷物背負わせるつもりだったんか。ウチも大差ないけど。
「あのときの他の犠牲者は今どうなってます?」
『魂を引き込まれていない人物は、死んではいません。怪我人として受理されるでしょう。』
よかった、無駄な犠牲増やしてないんだ。
「なぜウチは歌うと魔法が出せるんですか?」
『あなたの魂に最後に彫り込まれていた記憶が歌だったのです。ゆえにその記憶を力に変換しただけですよ。』
あのときイヤホンで電子の歌姫聞いてたっけな。思い出せないけど、多分そうだろう。
「ウチの家族は今どうなってますか?」
『そこまでは私は見えません。』
辛辣ぅ。悲しんでるだろうな、うん。
「この世界に降りかかるであろう悲劇、とは?」
『魔王復活です。あなたに力を貸し、せめてもの償いを果たそうと思っていたら、まさか復活の手助けをすることになろうとは。』
うん、それはごめんなさい。騙されてました。
「復活するって知ってたら、なぜウチを助け続けたのでしょうか。」
『私は戦いと勝利の女神。神獣らとの戦い、私はそれを単なる戦いとみなし、勝利を運んだだけです。遠い目で見れば最終的には敗北でしたが。』
勝負には勝ったが試合に負けたパターンですな。あいつらは神獣で正解だったんだね。
「なぜウチに力を貸そうと思ったのですか?」
『贖罪という理由が大半ですが、違いを挙げるとするなら……あなたが「負けず嫌い」だったからです。どのような手段や過程であれど、皆が笑いあえる結果を出すために、あなたは勝利を掴む。私の力を宿すのに十分な理由と心持ちだったのです。』
主力四体といかく持ち二体を利用した無償君臨とかやったなぁ。それが理由かい。あれは勝たないとストーリーが進まないからであって。
「魔王はどういった手段で魔物を生み出しているのですか?」
『魔王であるアルテリアの王。彼奴が率いるアルテリア族の血を引く者は魔族同様。それを媒体に魔物化させたのです。さらに硬貨に絡みついた人間の欲を具現化させ、人とは遠くかけ離れた魔物も生み出す術も編み出したようです。硬貨にあてがわれた価値が高ければ高いほど、それを求める人間の欲も高い。すなわち、その硬貨に絡みついた人間の欲も強いものとなります。』
強ければ強いほど、落とす……いや、元に戻ったコインの価値が高い理由が判明したぞこれ。それにしても、人間ってのは三大欲求プラス、「生きる」って欲がある。それもアウトなら金が使えない。金持ちとかどうしてるんだろう。
って、ウチのチームが魔物にならなかったのは、みんながアルテリアの外から来た人らで構成されてたからなの?ぅゎぁ偶然っょぃ。
「じゃあ最後の質問です。魔王はどうやったら倒せますか。」
女神の間に沈黙が広がる。
『……あなたは勇者ではないといったはずですが。』
「おっしゃる通りです。ですが、」
私は勇者ではなく、歌姫。
世界を救う力を兼ね備えた、歌姫なんですよ。
「勝利を司る女神様がウチを守ってくれるのでしたら、魔王にも勝てるはずです。」
『しかし……!』レグシナ様が苛立ったような声を出す。
でもね。
「勇者とは、生まれ持つ肩書きではありません。勇ましく、大きな功績をこなした者に与えられる称号です。でしたら、ウチが勇者じゃないのは当たり前なのです。」
重い沈黙が部屋に沈む。
と、その沈黙を打ち破るかのようにレグシナ様が大笑いし始めた。
『確かに、確かに! まさか私が人間に説得されようとは!』
よかった、怒ってない。ちょっとホッとする。
「では、魔王の撃破方をご教授願えませんか?」
『ここまで私を言い負かしたのです、いいでしょう。あなたの灯火が消える瞬間まで、私はあなたを援護します。』思い出せない歌など、と言い加えられた。とっさに歌が出たり、一回聞いただけの歌を歌えたりしたのはあなた様のおかげでしたか。感謝。
魔王は闇の魔力の使い手。女神は光。(というかこの世界での神様ってレグシナ様以外存在しないようだ。よくて魔王)その力は相対し合うが、それだけでは戦況は動かない。
ので、神獣を生き返らせ、魔王に刃向かわせないといけない。
この世界には神樹というものが存在する。神樹は神獣らと力のバランスを取っている。神獣亡き今は枯れた巨木に過ぎないだろうが、生き返らせれば神獣らも戻るはずだ。
『あなたほど歌を把握しているならば、莫大な力を宿す枯れ木にも命を吹き替えさせることができるでしょう。』
「お褒めのお言葉ありがとうございます。」
最後に、とレグシナ様が言う。
『あなたに眠る力を一つ、教えてあげましょう。』
「これ以上ウチに何か力があるんですか?」これ以上はチートだろう。
『はい。「解釈違い」とでも呼びましょうか。』
「……その名前だけで大体把握できた気がします。」
同じ歌でも聞き手によって意味は変わる。同じ歌でも、その歌に関連づけられた複数のイメージで、違う効果が出せる。あの白雪姫の歌も、「雪を生み出す」という効果に加え、本来の歌に「死を待つのみ」というイメージがある。それが「解釈違い」だろう。
『はい、その通りです。』ウチの把握した効果を肯定してくれた。よしゃ。
さ、戻って報告とかして、世界を救わないと。
『そうですね、向こうではすでに三日ほど経ってますし。』ウチのつぶやきに女神様が補足を入れる。
時間の流れが違うんなら、こんなに質問とかに時間をかけなかったかもしれない。
やばい、心配のしすぎでラクトやアーサーの胃に穴空く。
「♪大丈夫 大丈夫 痛くもかゆくもないんだよ 君が笑ってくれるなら だいじょうぶ だいじょうぶ 無様に転ぶ僕は」
『いってらっしゃい』と女神の声がして、ウチは目を開く。
「♪小さなサーカスの 玉乗りピエロ」
===
目を覚ますと、ベッドの上。若草色のカーテン、木製の床、窓から覗けば空を覆う紫の暗雲。ベッドのすぐ横の椅子にランスが座っている。いや、いた。過去形。ウチの復活にビビって椅子から転げ落ちたみたい。
「お、おい。大丈夫か?」
「こっちが聞きたいわ。寝てる間何が起きた?」ウチの珍しく真面目な表情と声のトーンに、ランスの赤い目も真面目モードに入る。
「最悪だぞ。リスメイに転がり込んだはいいが、ここはすでに対魔王最前線の拠点だ。物流も全てがアルテリアを通していたようなもんだから、兵士らに武具を揃えてやることもできない。野良含む冒険者はビビって参戦しやがらねぇし、正直負け戦だな。」
「違うね。」
ウチには勝利の女神がついている。
ウチが有り続ける限り、負けさせてやるもんか。
「リスメイの王に会いに行くぞ」
報告したいことが山ほどあるからね。
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