6曲目 I'd Do Anything
Break 4
「なにもそんなに無理してチェスター・ベニントンのような嗄れ声でシャウトしなくてもいいのに」と、この曲が終わるといつも思う。
スタジオで練習する時は普通に歌うのに。誰もいない時に密かにシャウトで歌う練習をしていたのかと思うと苦笑いが溢れる。
初めてこの曲をやったあのライブの時も同じことを思った。この曲で終わりじゃないのに、もう今日は歌えなくなってもいいとでも思っているかのような歌い方。
だからこの曲のあとは、歓声と拍手に身を委ねるのを忘れてしまう。一番好きな瞬間なのに忘れてしまう。
今日もそうだった。歓声よりもストラップのかかった背中に意識がいく。
この曲をライブのセトリに組み込もうと言い出したのは、ナナカだったと記憶している。
当時ナナカが何故この曲をやりたがったのかもよく分かっていた。
あの時文化祭ライブに出演できなかったのは、自分のせいだとメンバーみんなが感じていた。中でもナナカは誰よりも責任を感じていたように思う。
いや、むしろわたしの方に責任があるはずだった。けれど、ナナカは原因は遠山エリカだけではなく、自分の力不足にもあったと考えていたようだ。
あの頃のナナカは抜け殻のようで、触ると壊れてしまいそうな危うさを全身に纏っていた。誰かに助けてほしいのに誰にも助けを求めることができないでいたのだろう。
文化祭ライブに出られなかったことはナナカを壊しかけていた。
だけど、今になって思う。
あの時、わたしたちは文化祭ライブに出られなくてよかったのだ。出るべきではなかった。
こうしてバンドを続けてきて、何度もライブをするようになって思う。中途半端な曲をステージでやるのはカッコ悪い。お客さんにも失礼だ。
確かにあの時は、自分にできる精一杯のことをやった……。そんな気になっていた。
今こうして振り返ると、もっとやれたことがあると簡単に気がつく。
結局、あの時のわたしたちは、それぞれが自分のことしか考えていなかったのだ。誰かに聞いてもらいたいという意識。感動を届けたいという想いが足りていなかった。
今あの時よりも成長したわたしは思う。
初めてのライブが一年生の時ではなく、二年生の時の文化祭ライブで良かったのだと。そうでなければ、今こうして、ここでライブをしていなかったかもしれない。
お互いのことを深く知ることもなかったのかもしれない。そのまま深く知ろうとはしなかったかもしれない。
結果オーライだ。
今にして思えばまだ、幼かった十代のあの頃。
今日のお客さんの中にも制服を着た子がチラホラと見える。高校生とはあんなにも幼く未熟なのかと驚かされる。
自分が高校生の時は一丁前に大人の仲間入りをした気でいた。
甘酸っぱい中に仄かな苦味が混じる懐かしい香り。
あの時、目的のためならなんでもしようと思った。
次の曲。Simple Planの『I'd Do Anything』
次の曲とわたしの思考がリンクする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます