書物置

イロニアート

ツチ×スナ「服を買うならこんなふうに」


「おぉぉぉーっははぁっ!」


 オレは地面に落ちていた光るそれを掴み上げ、親指と人差し指で挟んで太陽に向ける。

 間違いねぇ。この輝きはキラキラだ。

 パークを隅々まで調べていると、こうして珍しいお宝を見つけられる。最初は単なる趣味だったが、そのうち、パークの過去を探索するのが、オレのライフワーク?ってのになってきた。

 だが、同時に、この趣味はオレを孤立させた。

 なんてったって他のフレンズはパークの過去なんかに興味すらねぇどころか、貴重な遺跡や宝物を壊したり失くしたりしやがる。想像力が足りないんだ。どんな目的でパーク作られたとか、どんな気持ちで施設や宝物が作られたとか、そういう所まで考えが及ばねえんだ。

 今はもう居なくなったヒトなんて、誰も気にやしない。

 あいつらのそんな薄情な振る舞いにオレは嫌気が差した。それからはずっと、一人でパークの遺跡を渡り歩いている。


 「これで2個め……あと1個か……」


 地下迷宮の中で、オレの足音だけが反響している。


*   *   *


 そんなオレだがな……最近の悩みは、やたらつきまとってくる奴がいる事なんだ。その、いわゆる「かばん」とかいうヒトみたいなのを成り行きで助けた後、その足跡を付いてきて、地下迷宮にたどり着いた奴がいたんだ。


「うわ~!すごいですね~!」


 気の抜ける声で背後から声をかけてきたそいつは、オレに気づくやいなや駆け寄ってくる。オレは驚きのあまり声が出ず、全力で後ずさりした。そいつはオレの座っていた所に残された、パーカーの裾で磨いていた宝物に目を輝かせて食いつく。


「これ、キラキラしてます~見たことないですね。これ、なんですか?」

「……お前、これに興味あるのか?」

「よくわからないけど、面白そうです!」


 はは、まあたまにいるんだ、オレのやってることを物珍しそうに見に来るやつがな。ま、オレは話すのは嫌いじゃねえ、軽くあしらってやるのが定石だ。


「これはだな、その見ための通りキラキラと言ってだな、パークの中ではとっても珍しいものなんだ。120……円?で一つと交換出来たらしいが、円ってのはジャパリコインじゃないらしい。だから、落ちてたりするものを探すしか今は手に入らないんだ」

「へぇ……」


 飽きてやんの……って早すぎだろ!いやいやいや、「どうせそのうち飽きてくるんだよなぁ、どうせ」と思ってたのは間違いねぇけど、こんなに早えーヤツは居なかったぜ。そいつはまた別なモノを手に取るとまた目を輝かせてる。


「わぁ~これもキラキラですか?」

「……いや、それはキラキラとは違ってかくかくしかじか」

「……そうですか」


 またかよ。

 となんやかんや言いつつも、そいつは結構頻繁にやって来る。見つけるものには食いつくから、きっとそれ目当てなんだろうな。

 だが、それにも限界があった……のかなんなのかわかんねぇけど、ある日ヤツはこう言った。


「それ、何の役にたつんですかぁ?」


 一瞬答えに詰まった……んなこと、考えた事なかったからな。


「役に立つって……知らねえよそんな事、昔のパークが分かるだけだ」


 正直に答える。だけどあいつはこんな事言いやがった。


「へぇ……つまんない」



「つまんないって何だよ!」



 当然、オレはブチ切れた。一旦切れちったら、今まで溜まってた鬱憤がどんどん出てきちまう。


「ケッ!お前らはどいつもこいつも、今の事しか考えてねぇ!昔に何が起こったとか、パークのヒトがどういう気持ちだったとか、そんな事どうでもいいんだろ?」

「…………」

「今の俺たちが居なくなって、忘れられて、誰にも思い出されなくなって、無かったことのように扱われて……オレは……そんなのは嫌だ」

「でも、ツチノコはむかしのことばっかり……いまの事はどうでもいいんですかぁ?」


 ヤツはこんだけ言われてもぼんやりした顔で佇んでやがる。チッ、いい度胸じゃねーか。


「フンッ、いいぜ。お前に見せてやるよ、こんなつまんねぇ事でも役に立つって事をな!」


 啖呵を切って、オレは暗い道を大股で歩き、地面を踏み鳴らした。


*   *   *


 もちろん、オレに打算が無いわけではなかった。

 パークの遊園地の近くにはいろんなアクセサリーや服が売っている売店がある。フレンズ連中はそれをショーウィンドウ越しに眺めているだけだ。

 店に入って取れば良いだって?そうは問屋が降ろさねぇ。オレたちが店に入ろうとすると、ボスが立ちふさがって来る。店のポスターをなんとか解読すると、キラキラ3つ持ってないと店には入れてもらえないらしい。無理やり盗もうとすると、パーク中のボスに突き回される事になるんだ。ジャパリまんも手に入らなくなる。


「盗んだ服はボスに追いかけ回される呪いがかかっている」


 そんな噂が広がって、誰も服を盗もうなんて考えなくなった。いつしか、フレンズは服が脱げる事も忘れていったみたいだ。

 幸運にも、脱皮するオレは感覚的に服が脱げる事が分かっている。キラキラについて知っているのもオレだけだ。なんとかそれを3つ集めれば、パークの奴らみんながうらやましがるような服が手に入る。もちろん、ボスの呪いなしでな。

 問題は、オレの手元にキラキラが1個しかなかった事だ。んで、やっとさっき2つ目を見つけた所なんだが……。


「あと一つ……見つかるのか?」


 こういう心配しちまうと大体なかなか見つからないもんだよな。事実、そのとおりになった。

 それなのに、ヤツはやっぱり毎日のようにやって来る。


「まだ、ですかぁ?」

「うるっせえな……」


 その上前言った事はやたら覚えている。


「早く僕に見せてくださいね。びっくりするんでしょ?」

「まだモノが足りねえんだよチクショ~、ちょっとは辛抱しやがれ!」


 そう言っているしてるうちに1週間、2週間、3週間と過ぎた……オレはイライラし始めた。なんてったってこう最後のキラキラが見つかんねぇんだ。もう、このパークにキラキラはこれ以上ねえんじゃねえか……?だとしたら、とんだとりこし苦労だ。

 あいつの言った通りじゃねえか……こんなゴミ拾いをやってたって何の役にも立たねえ。大体のやつにゃ興味すら持たれねぇ。ああ、他のフレンズと遊んでたほうがマシじゃねえか。

 それでもオレは過去のヒトやフレンズが遺したモノが、いつかみんなの役に立つと踏んでたさ。それが、もういない奴らの願いを叶える事だとな……でも、結局このザマじゃねーか!オレは遠い過去のもういない奴らに踊らされてただけだったのか!?

 クソッ!クソッ!どいつもこいつも、過去も今も、オレの周りには薄情な奴ばかりだ!

 やってられっか!


 その日から、オレは、もう、パークの過去を探索するのは止めにした。地下迷宮の出口で日向ぼっこと言いながらゴロゴロしていると、ま~たヤツがちょっかい出しに来た。


「今日は宝探し、しないんですか?」


 いっつもいっつもおんなじ顔で聞いてくる。おちょくってんのか?オレは怒鳴り調子に言い放った。


「ああ、もうヤメだ!ヤメヤメだ!お前の言うとおりだよ。こんな事やってても何の役にも立ちゃしねえ、むしろ、周りから遠ざかっちまうだけだよ!」


 フン!と鼻息を鳴らしてオレはまたふて寝する。



「それは……もっとつまんないですね」



 ああ、あいつの表情は全く変わらなかったよ。でもな、どことなく寂しげに聞こえちまったんだ。全く、どうして欲しいのかよくわかんねぇヤツだよ。

 でも、次の瞬間、あいつはオレの目の前で両手を広げた。その中には……



「見たいです。ツチノコの宝探しが役に立つところ」



「どっ、どどどど、どこで見つけたんだ~っ!それを~~っ!」


 わざわざ説明しなくてもいいだろ。あいつの手の中にあったものなんて。


「砂嵐で埋まった道を掘り直してたら、なんか光ってたので、もってきました」

「ううう……これがあれば…………これ、オレに……くれるのかっ!?」


 全く恥も何もありゃしねえ。でも、必死の思いでオレはヤツに頼んだ。


「……はい」


 どう見ても飽きた返事だったが、逆に遠慮がいらなかったな。


*   *   *


すぐさまオレは売店に向かった。入り口に差し掛かった時、ボスがやって来た。


「……これでどうだ?」


ポケットから取り出した3つのキラキラを手の上で転がす……大丈夫だよな……ボスはしばらくジジジジとかピピピピとかよくわからん音を出してたが、ピーッという音と一緒に、透明なドアがガーッと開いた。


「ようこそパークショップへ!ごゆっくりお買い物をお楽しみ下さい」


 ボスからは丁寧なアナウンスが流れてくる。眼の前には、明るい照明に照らされた色とりどりの服がいっぱいだ……。一歩踏み入れ、あたりを見回し誰もいない事を確認すると、オレは雄叫びを上げた。


「…………うおっしゃぁぁーッ!やったぞーっ!」


 後はオレに似合う服を探すだけだ!

 そう息巻いていたものの、「なんだか変だ」と気づくのには時間はかからなかった。ここの服は……その……色々と……


「尻が出てしまいそうなくせに、手がかくれちゃうくらい手の穴がでけえッ!」

「やたらヒラヒラしてんのがゴテゴテしすぎじゃねえかっ……?」

「なんだこの服!まるでヒモだーっ!こんなの着れっか、キシャーッ」

「※■◎△×★*(声にならない声)!!!!」


 色々と、危うい。

 何着も服をとっかえひっかえしても、鏡に映したオレの顔は真っ赤なのは変わらなかった。


「こんなに苦労して来たのに……こんな変な、派手な服ばっかりで……こんなん着て表に出るなんて恥ずかし過ぎるだろ!オレには無理だ!」


 試着室の前に散乱した服の山を呆然と眺めてから、オレはへたりこんで頭を抱えた。


「ヒトの考える事は、やっぱり良く分からねぇな……」


 もうこのままキラキラの事を忘れてしまおう、そう思って店を出ようとした瞬間、あいつの顔が思い浮かんだ。


――見たいです。ツチノコのそれが役に立つところ


 ……そうだったな。あいつを驚かせてやらねえと……あっと言わせてやらねぇと。オレは一番でかくて派手でヒラヒラしていてネックレスまでついてるやつをぶんどると、テーブル上の機械の上でじっと待っているボスに向かって叫んだ。


「これ、買っていくからな。キラキラは3つで良いんだろ!?置いてくぞ!」


 そのまま自動で開いた透明なドアから走って出ていく。一刻も早く、このすげえ服を着せてやれば、さすがのあいつでもびっくり仰天だ!うははーっーヒャハーッ!


「ピュアリーブライダル、お買い上げありがとうございました!」


背後でボスが何か言った気がしたけど、そんな事はもうどうでも良かった。


*   *   *


「おい!これを見ろ!」


 地下迷宮の出口で待っていたスナネコに、オレは高々と手に入れた服を掲げた。真っ白な布がバサーっと広がって、太陽の光でキラキラと輝く。


「おおーっ!なんですかそれぇ!?」

「キラキラが3つ集まったから、こんなすげえ服が手に入ったんだ、どうだっ!!!あっはははは……!」


 高々と笑うオレに、ヤツも目をいつもの倍くらい輝かせて食いついてる。へへへ。


「ほら、お前にやるよ」

「……ありがとうございます」


 くっっっっそ―もう飽きてやがる。だがな、今回はこれくらいで引き下がるわけにゃいかねえんだ、肩をむんずと掴んでオレは背中に手をかける。


「ちゃんと着てから飽きろーっ!」

「うわぁ」


 半ば無理やりあいつの服を脱がせる。というより、ヤツは服だって気づいてねーから、こうしないといけねぇから仕方ねぇ。そしてそのまま手を止めずに、買ってきた服をきちんと着せてやる。


「ここをこーしてだな……おし、もう動いていいぞ」


ネックレスの留め金を留めて、背中を向けているヤツに声をかける。さあどうだ……どんな反応が来るのか……

だが、立ち上がって振り返ったあいつに、オレは言葉を失った。


「にあってますか?フフフ」


真っ白な服に身を包んだあいつは、その……その……上手く言えないが……


「…………悪くはないな」


うん、やっぱり上手く言えねぇ、てか、言えっか!そんな、そんな事!


 まぁ、でも。


「へへ……役に、立つんだな」


ヤツのおかげで、これからもこうして、パークの過去を探っていけるような気がより強まった気がするな。


「ん?何か言いましたか?」

「……んでもねーよ!」


 それは、正直に良かった、な。


「あ、ツチノコがこれ着たのも見てみたいです」

「え、あ、いいよオレは、お前だけでいいから!ああああああ!んな乱暴に脱ぐなよ!ぎゃぁぁぁしっぽ掴むなぁぁぁ!ドサクサにまぎれて脱がしてんじゃねえ!キシャーッ!てか着せる前に服着ろーっ!コノヤロウ!」


 でも、服は……

 服は、もうコリゴリだーっ!


 (おわり)

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