第18話 勇者VS勇者

         勇者VS勇者



 もはやお定まりの、ダークウルフの肉を頬張りながら、ミレアの話を聞く。


「まずいですね。そろそろ結界石が尽きそうです」

「後、何個ある?」

「アラタさんのを含めて2個です」

「う~ん、高くて、あまり買えなかったからな~」

「はい。ですので、危険ですが、一旦町へ戻って補給したいのですが」

「うん、魔核や魔物素材を売れば金になるだろうし、補給はしたい。それに、スコットに武器作成もさせたいな。ならば明日、20階層を頑張ってクリアして、一旦出よう」

「それがいいかと」


「だが、問題は追手だよな~。テレポートの石で逃げるか?」

「それが最善だと思いますが、1個しかありませんし、敵の近くでは使えません」

「敵の近くでは使えない?」

「敵と認識している者の近く、距離にして10mくらいでしょうか? 魔力の干渉を受けてしまいます。当然、ダンジョン内でも使えません」

「ふむ、万能では無い訳か」

「最悪、私とお姉様を置いて逃げてください。今のアラタさんなら、追い付ける人はまず居ません。ウルベン様に会えれば何とかしてくださいます」


「それは絶対にできない選択だな!」


 クレアとミレアが、期せずして茹で上がった。


「ところで、この世界の冒険者や兵士の平均的な能力って、どのくらいなんだろう?」

「そうですわね。兵隊や冒険者なら、レベルにして40台、ステータスは、高くて120平均くらいだと思いますわ」

「僕の仲間だと、平均ステータスが100もあれば、最強でしたにゃ」

「ふむ、なら、今のお前達でも十分に相手になる訳だ」

「確かに一対一なら、私達でも勝負になると思いますわ」

「ですが、数で来られたらどうしようもありません」

「そうなったら、無双でも何でもするよ。これ以上考えても仕方無い。なるようになるさ」


 その晩は火の魔法書を読んだ。思った通り適性があったようで、【ファイアショット】と【アイスランス】を覚えることが出来た。ミレアと被るが、覚えないよりはいいだろう。


 翌日、階層を降りると、また新しい敵が出てきた。


 キラービー。こいつは攻撃力こそさほど無いのだが、攻撃を喰らうと、30秒程麻痺してしまう。

 おまけに素早く飛ぶので、攻撃を当てにくい。魔法でもスコットの矢でも一撃で死ぬのだが、複数で出てくることが多いので、誠に厄介である。

 麻痺を喰らっている所を、スケルトンなんかに囲まれたら、軽く死ねるだろう。


 幸い、俺にはすぐに耐性がついたので、少々時間がかかったが、昨日と同様の戦法で、全員に耐性を付ける。

 具体的には、一匹だけ残した奴を俺が捕まえて、尻の針を全員にぶっ刺していくという、野蛮な方法だ。漫画なんかで出てくる、巨大注射器を振り回す看護師のイメージだ。

 手法はどうあれ、麻痺を解除する術を持たない俺達には、絶対に必要なことなので、皆、怯えながらも耐えてくれた。



 そして俺達は、当初の目的である20階層に辿り着いた。


 マッピングで確かめると、前回同様、奥の方に3匹固まっている。


「前回同様お引きが2体居る。俺は階層主を引き付けるから、お前らはお引きから頼む!」

「「「はい!」」ですにゃ!」


 戦闘は思ったよりあっけなかった。

 階層主は情報通り、2mはある、宙に浮いたでっかい蜂の化物だった。

 お引きの2体は、スケルトンLv5


 スケルトン2体は、俺が突っ込むと同時に、ミレアがファイアウォールで纏めて体力を削り、そこにクレアの回復魔法と、スコットの矢の連射で瞬殺。


 俺に飛び掛かってきた階層主には、【ハイスタン】を唱えると、なんと、床に落ちた。

 飛び立つ前に、皆で寄って集って凹る!


「思ったより楽勝だったな」

「そうですわね」


 魔核やらを回収しようと思ったら、奥の扉が開く。


 ああ、階層主を倒したからだなと、特に気にしなかったが、いきなり俺の危機感知に5個の点が映る!


「やっと、出て来たよ。クレア・ハミストとミレア・ハミストだな? そして、君がアラタちゃんだね?」


 慌てて扉を見ると、真ん中に銀色の鎧に身を包んだ、金髪でハンサムなんだが、何とも派手な男。そして、かなり若い。高校生くらいに見える。

 更に、左右に、槍を携えた、いかにも兵士という装備の男を、二人ずつ従えていた。


 チッ、追手か!


 俺は理解した。こいつらは多分、20階のワープの小部屋から来て、扉の前で待機していたに違いない。

 俺達が階層主を倒したので、自動的に開いた扉から入って来たと。

 今まで危機感知に反応しなかったのは、俺達が目的の人間かどうかが、顔を見るまで分からなかったからだろう。

 しかし、今反応しているという事は、殺すか拘束するか、どちらかのつもりの筈だ。


「え~っと、あんた誰?」

「あ~、言い遅れたね。僕の名前は、橘充タチバナ・ミツル、気軽にミツル様と呼んでいいよ」


 そう言いながら、ミツルは俺の5mくらいのところまで歩み寄ってきた。

 何、こいつ? 名前からして多分勇者だろうが、何故にそこまで偉そう?


 3人が、俺の後ろで武器を構えた。


「あ~、待ってくれ。君達に危害を加えるつもりは無いよ。僕はアラタちゃんを保護しに来ただけだから。でも、君みたいな子にアラタなんて名前は似合わないな」

「ん~、ミツル様とやら、さっぱり分からないんですが。魔核とか回収したいんで、後にして貰えますかね?」

「そんなことは必要無いさ。アラタちゃんは、今から僕と帰るんだから」

「だから、さっぱり分からんって言ってるだろうが! それに、アラタちゃんなんて、気安く呼ばれる覚えもない!」


 付き従っていた兵士が槍を構える。今にも飛び掛かって来そうだ。

 ミツルは、それを軽く手で制する。


「可愛い顔して乱暴な喋り方だね~。僕と同じ転生者なんだから、仲良くしようよ」

「ふ~ん。ってことは、あんたも勇者か?」

「あんたじゃなく、ミツル様だよ! み・つ・る・さ・ま! 今度無礼な呼び方したら、保護せず殺すよ?」

「あ~、分かった。『ミツル君』、これが最大限の譲歩だ」

「我儘だな~。でも僕は寛大だし、君みたいな可愛い子を殺したくもない。我慢するよ。ああ、言い忘れていたね。僕はシュール共和国の勇者だ。1年前、僕が15歳の時に召喚されたんだ」


 シュール共和国と言えば、このダンジョンのあるサラサ自治領を、名目上だけだが統治している国家だ。どっから情報を仕入れたか知らないが、いち早くここに来られた理由は納得できた。


「で、その勇者ミツル君が、俺に何の用だ?」

「だから、保護だよ、保護。君は騙されているんだよ」


 またもや後ろで武器を構え直す音がしたので、俺は振り返って諭す。


「うん、ここは話だけでも聞こう」


「流石は転生者、冷静だね。もっとも君達が束になっても、僕には敵わないけどね」


 確かに、俺は召喚されてからまだ1週間も経っていない。こいつが鍛えているなら、俺では太刀打ちできないだろう。


「で、俺は誰にどう騙されているんだ?」

「うん、君の従者の赤髪と青髪のおばさんに、こう言われたんだろう。『ダンジョンに潜れ』って」


 なんか、後ろに凄まじい殺気を感じる。俺みたいな素人にも十分伝わる。


「彼女達はおばさんではないが、確かにそう言われたな」

「そこなんだよ。この世界は今やダンジョンと共存している。僕らのような転生者が、わざわざ潜る必要なんて無いんだよ」

「ふむ、そこは、ある程度は同感だな」

「じゃあ、何故、今潜っているんだい?」

「自分の身を守る為だ」

「そんなことしなくたって、僕が守ってあげるよ。君、可愛いし。僕の嫁にしてあげてもいいよ」

「いや、それは断る!」


 22歳の青年が、16歳の男子にプロポーズされちゃいました。

 そんな事より、こいつ、俺の中身を知らないな。

 まあ、他国だしそこまでの情報は無いってことか。

 面倒だし、ここは黙っていよう。


「大体、俺の自由だろう? 何故ミツル君に守られなくちゃならん?」

「転生者は転生者同士で暮らすのが自然じゃないか。今年召喚された大葉君だって納得していたよ。僕はこの世界の転生者全員を保護して、転生者の為の国を作りたいんだよ」

「ふむ、それは理解できなくもないか。でも、それはミツル君の保護者も承知しているのか?」

「保護者? ああ、僕を召喚した国王のことかい? 現状では、僕が保護しているようなものだね。僕は強くなり過ぎた。ステータスだって、こいつらの3倍くらいあるよ」


 そう言って、ミツルはお付きの兵士を見渡す。


 なるほど、おおよそ分った気がする。


「で、その国王は何か言っていたか?」

「ああ、もし戦争になったら僕の力でこの国を守って欲しいってさ。勇者を保護したいって言ったら、それはもう大喜びだったよ」

「では、何故ミツル君がこの国を守らないといけないんだ?」

「当たり前じゃないか。僕はこの国、いや、この世界で神のような存在だよ? 自分の国くらい守れなくてどうするのさ? 僕は何れ、この世界の国、全てを統べないといけないんだよ」


 うん、分かった。こいつ、あれだ。完全な厨二だ。

 国王とやらにどれだけおだてられたか知らないが、天高く舞い上がっている。


「じゃあ、訊くけどさ、それなら、先ずはミツル君が国王になればいいんじゃないかな?」


 俺はわざと口調を変えた。


「え~っ、政治とかそんな面倒な事したくないよ。そういうのは、あいつらに全部やらせればいいんだよ」


 こいつ最低だ。

 だが、これはこいつの保護者達からすれば都合がいい。

 ふむ、『政治なぞは、勇者様の手を煩わせる物ではありません!』とでも言われたか? 


「いや、でも、ミツル君はこの世界の神様なんでしょ? やっぱり責任とかあるんじゃないかな?」

「何でだよ。僕がしたいようにするだけだよ。と言うか、君、五月蠅いね。本当に殺すよ? あ、でも僕の奴隷になるなら勘弁してあげるよ」


 やはりそう来る訳ですか。


「これは失礼しました。ところで、ミツル様はどれくらいお強いのでしょうか? 無知な私めにお教えください」

「今更媚びても許さないよ。今日からお前は僕の奴隷だ。毎晩可愛がってやるよ。ちなみに僕のレベルは40! ステータスは平均300だ! 分かったら、さっさとついて来い!」


 やはりな。昨晩聞いておいて良かった。

 兵士の3倍って聞いた時点でおおよそ見当はついていたが、予想より低いな。

 ちなみに、今の俺のステータスは、さっき階層主を倒した事もあり、最低でも360はある。高いのは400超えだ。

 こいつに比べて、ここまで成長が早い原因は不明だが、考えられるのは、リムとの二重魂のせいか。厄介な状態ではあるが、ある意味感謝だな。


 そして、途中から戦わないといけないとは思っていたが、これなら何とかなりそうだ。もはや、こいつに拘束されるか戦うか、二つしか道が無いのは明白だ。


 ただ、こいつの場数が未知数だ。一年も先を越されているのだから、そこは格上だと思わねばならない。いくらステータスで勝っていると言っても、大した差では無い。やるとなったら、最初から全力でやらないと、勝ち目は薄いだろう。


「しかし、レベル40でステ300って、低すぎないか?」


 これは素直な感想だ。俺がこの調子でレベルが40になれば、ステは倍では利かないはずだ。最近、更に伸びが良くなっている気がするし。


「へ?」

「お前、1年間何やっていた? それに、たかだかパンピーの3倍くらいの能力で、国家に勝てると思っているのか?」


 俺はあえて怒らせる。少しでも平常心を失ってくれれば、それだけこちらに勝機が出るはずだ。

 また、幸いなことに、こいつは俺を舐め切っている。傍の兵士達も、男は一人、後は女だけと見たのか、にやついていやがった。もっとも、クレアとミレアに対して下心もあるのだろう。


「おまえ~っ! 何をこの僕に向かって無礼な口を! 召喚されて1週間も経ってないガキが!」

「ん~、人生経験だけならお前よりあると思うぞ?」

「訳の分からない事を! お前ら、構わない、殺せ! 命令だ!」

「仕方無い」


 その言葉と共に俺の後ろの仲間も、ミツルのお付きの兵士も、一斉に飛び出した!


「ハイスタン!」

「ファイアウォール!」

「3連射!」

「アクアダーツ!」


 向かってきた兵士4人は、この一瞬で、悲鳴と共に蹲る!

 これは完全に初撃が決まったな。ミレアのファイアウォールがもろに入り、そこをクレアとスコットに追撃されたのだ。ここいらの階層の魔物ならば、これだけで瞬殺だ。流石に死んではいないと思うが、ダメージは深刻なはずだ。

 

 更に、ミツルには効かないかも知れないと思っていた【ハイスタン】だが、これも見事に決まったようで、奴は硬直している。


「縮地!」


 俺は瞬時にミツルとの間合いを詰める!

 格闘術レベルが4になって新に会得した技だ。特に教わった訳ではないが、漫画とかを思い出して、何となく出来そうな気がしたので、試してみたら、出来てしまった。

 10mくらいの距離なら、一歩踏み出す感覚で無にできる。


 相手の手の内が分からない以上は、先手必勝!


 俺は躊躇わず、膝蹴りを鳩尾みぞおちに入れ、そのまま顔面に左右の連打を叩き込む!

 鎧が割れた感触があり、端正な顔立ちが無残に変形する!

 更に、着地と同時に足払いを掛けて転がした!


 ここで硬直が切れたのか、ミツルは剣を握って立ち上がろうとする。

 怒り過ぎたせいか、目が泳いでいる。

 続けて頭を蹴飛ばす!

 そこまでしても、まだ目を見開いて俺を睨む!


 流石は勇者! 渋太い!


 口を動かそうとしたので、俺は迷わず喉に膝を落とした!

 呪文なんか唱えさせてたまるか!


 気管を流れるかすれた音と共に、ミツルは意識を失ったようだ。


 全員が駆け寄って来る。

 三人とも、こんな奴でも勇者に手を出す事は咎めるようで、黙って見下ろしている。


「安心してくれ。殺してはいない。本気なら、多分首の骨を折れた」

「し、しかし勇者様を……」


 クレアがおろおろしている。


「ところで、兵士は殺したのか?」

「いえ、重症の人も居ますが、誰も死んではいないかと」


 ふむ、あれから更に追撃していたようだしな。

 誰も死んでいないのが不思議なくらいだ。

 もっとも、もし死なれていたら、仕方が無いとは言え、後味はかなり悪いが。この兵士達は、あの盗賊共とは違って、ミツルの命令で動いていたからだ。


「じゃあ、取り敢えず、全員縛り上げろ! 猿轡とアイテムボックスのチェックを忘れるな! 縛り終えたら回復してやれ」

「「「は、はい!」」ですにゃ!」



「え~っと、お取込み中悪いんすけど」


 なんと、ミツルたちが出てきた扉から、もう一人湧いてきた!


 全員が一斉に振り向く!



  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 作者註


 この時点でのステータスです。読み飛ばして下さい。


氏名:アラタ・コノエ 年齢:22歳  性別:男

職業:冒険者 勇者 貴族 レベル:20

体力:365/365

気力:395/395 +20

攻撃力:380 +15

素早さ:400 素早さ+1

命中:400 

防御:365  +28

知力:440

魔力:400  +1

魔法防御:380

スキル:言語理解5 交渉術2 危機感知4 人物鑑定2 特殊性癖1 マッピング 

    家事2 社交術2 格闘術4 剣術2 

    回復魔法3 火魔法1 水魔法0 土魔法0 光魔法0 闇魔法3 

    毒無効 麻痺耐性中 暗闇無効

    アイテムボックス800



氏名:クレア 年齢:20歳  性別:女

職業:奴隷〈リムリア・ゼーラ・モーテル〉 レベル:39

体力:147/147

気力:137/137 +22

攻撃力:161 

素早さ:156 +1

命中:147 

防御:133 +32

知力:103

魔力:132  +1

魔法防御:136

スキル:言語理解3 家事4 社交術2 特殊性癖2 マッピング 

    棍棒4 格闘術1 水魔法2 回復魔法3 

    毒耐性中 麻痺耐性小 暗闇耐性中

    アイテムボックス515


氏名:ミレア 年齢:19歳 性別:女

職業:奴隷〈リムリア・ゼーラ・モーテル〉 レベル:37

体力:120/120

気力:145/145 +20

攻撃力:118 

素早さ:136 +1

命中:120 

防御:119 +16 

知力:140

魔力:141  +5

魔法防御:132

スキル:言語理解4 家事3 社交術2 特殊性癖2 マッピング 

    剣術1 ガード1 火魔法3 風魔法2 

    毒耐性中 麻痺耐性小 暗闇耐性中

    アイテムボックス522



氏名:スコット・オルガン 年齢:18歳 性別:男

職業:冒険者 鍛冶師 レベル:30

体力:108/108

気力:95/95 +20

攻撃力:106 

素早さ:100 +1

命中:120 +1

防御:92 +11

知力:96

魔力:106

魔法防御:103

スキル:言語理解3 マッピング

    武器作成2 防具作成1 道具鑑定2 鉱石鑑定2 魔核合成2

    弓術4 風魔法2 

    毒耐性大 麻痺耐性中 暗闇耐性中


 お気付きの方も多いと思いますが、この世界の人間の、経年によるレベルアップと、経験によるレベルアップは別物です。ステータスには合算で表示されます。


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