僕の心は
大塚オル
第1話 僕は願った。
僕、志島圭は小学生にして神に願った。
人の心の声を聴く耳を。
もし、あいつの心の声が聞こえればもっと仲良くなれるだろうか。
もし、気になるあの子の心の声が聞こえればもっと近づけるのだろうか。
もし、もし、もし・・・
僕は考えすぎたのかもしれない。人の思考を。人の考えを。人の心を。人の心のその裏側を。
いつしか僕は神様に人の心の声を聴く耳を願っていた。
それは僕のけして良いとは言えない、家庭環境も関係していたのかもしれない。
僕の家は、いわゆる冷めた家庭だった。父は毎晩仕事で帰りが遅く、一緒に食事をとることなんてめったに無く、珍しく早く帰ってきた日でも特に会話もなく、ただ同じ家にいるだけ、同じ部屋にいるだけ、同じテーブルでご飯を食べるだけ。そこに家族らしい繋がりを感じたことは無かった、
いつからと言われれば、それは最初からでは無かったのだろう。しかし僕が物心ついた時にはすでにそうだったのだから、かなり早い段階でお互いの気持ちは離れていたのだろう。
しかし、僕にとってはそれが当たり前だったのだから、気がついたらそうであったのだから、それを不幸だと感じたことは無かった。
そういうものなのだと、理解していたのだ。
たとえ家族らしいことをしてもらえなかったとしても、当時の僕は両親のことを慕っていたため、彼らに好かれようと必死だった。
幼くとも、離婚してしまえば家族一緒にはいられなくなることは理解していたため、家族といる間は常に気を使い、顔色を窺いながら生活していた。そのころの両親はそれほどまでにぎりぎりの状態だったのだ。何か些細なきっかけでもあればあっさりと離婚してしまうんじゃないかと幼い少年でも感じるくらいに。
そういう家庭にいたこともあって、僕は普段から人の顔色を窺いながら生活するようになった。別に意識してそうしていたわけでは無く、無意識に。家での習慣が自然と外でも出てしまうことは珍しくないだろう。
そうして普段から人の顔色を窺い、人の心の声に耳を澄ましていた小学生の心は疲弊しきっていた。
ある日、小学校からの帰り道の途中にある小さな神社に寄り道をした。
学校を終えてすぐに、あの家に帰るのが億劫だったのかもしれない。詳しくは覚えていないが、何も考えていなかったのかもしれない。
ただの休憩のつもりだったのかもしれない。
神社の階段に腰を下ろし、荷物を下ろし、ひと息つく。
それは自然に、ごく自然にこぼれ出た言葉だった。
「人の心の声が聞こえたら、どんなに楽なことか・・・」
その独り言を、神は聞き逃さなかったらしい。
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