あなたは突破できるか!? 男チュートリアル!

ちびまるフォイ

コンティニュー? はい いいえ

『それでは、これから男子のチュートリアルを始めます』


「え、ちょっと待って!? 私、なにも聞いてないんだけど!?」


『あなたは昨日、友達の飲み会の席で"彼氏ほし~~い"と発言しました。

 そこで、これから彼氏とのいさかいを避けるために

 男性のチュートリアルをクリアしてもらいたいと思います』


「だ、男性のチュートリアル……下ネタ?」

『違います』


壁がせり上がると、自分の部屋のセットが一式組み上がった。


『これから彼氏と同棲している設定になります。

 そして、あっちのマーカーを見てください』


「うわ! 靴下脱ぎっぱなしじゃん!!」


部屋には黒い男性用の靴下が床に落ちていた。


『それをテレビを見ている彼氏に正しく注意できればチュートリアル突破です』


「そんなの簡単じゃん」


部屋に入ると、靴下をつまんで寝転がる彼氏を見下ろした。


「ちょっと、靴下あったんだけど。部屋の前の廊下に」


「ああ」


「"ああ"じゃないわよ!? なんで廊下で脱ぐわけ!?

 それをなんで洗濯機に入れないの!? 脱衣所までほんの数歩じゃない!?

 二足歩行してるんだからそれくらい歩けるよね!!

 普通に洗濯機に靴下を入れるのがバスケのスリーポイントよりも難しいの!!?」



ブブー。クリア失敗です。



「うそ!? なんで!? ちゃんと注意したじゃない!」


『彼氏の顔を見てください』


彼氏(役)はぽかんとした顔をしている。


『あなたの注意は自分の不快感を相手に伝えたもので、

 男性にとっては"なんか靴下ごときでキレてるヒス女"として受け取られています』


「はぁ!? 悪いのはあっちじゃない!!」


『男性に注意するときはメカニズムを意識して注意してみましょう。

 では、テイク2』


再び同じシチュエーションが再開される。

同じように靴下をつまんで彼氏の前に出したが、今度は説明の方法を変えた。


「あ、あのーーえと。部屋の前に靴下がありました。

 私は、靴下が床に脱ぎ散らかされているのが嫌いです。

 なぜかというと、鼻かんだティッシュを床に放置しているのと同じような

 生理的な不快感を感じるからです。


 今後は、玄関に入った段階で靴下を脱いで、即洗濯機に入れるよう

 行動パターンの改善に努めてほしいなと思います」


「……英訳?」



ピンポンピンポン。クリアです。



『言葉は少し硬くて不自然でしたが、伝える方法はあっていました。

 おめでとうございます、チュートリアル突破です』


「あんなんでよかったの? 逆にイヤミっぽく聞こえるような……」


『男性には感情を理解してもらうのではなく、

 "どうして改善してほしいか"を"納得"させるのを意識してください。

 では次のステージです』


「まだあるの!?」


今度は生活感あふれる部屋のセットから一転し、オシャレなフレンチレストラン。


『今度のシチュエーションは食事です。男性と有意義な時間を過ごしてください』


「あ、今度は簡単そう」


男側もマナーがわからないとんちんかんというわけでもなく、

ごくごく普通に食事をとっているので安心。

食事もおいしいので得した気分。


「ねぇ、これおいしいね」

「……」


「……つ、次、どんな料理かな」

「メニュー見れば?」


「そのお肉美味しい?」

「…………」


「む、無視しないでほしいなーー……」


「……何が言いたいの?」


もう我慢の限界。持っていたナイフを持って斬りかかる。



ブブー。クリア失敗です。



「がるるる!! なんで!? 今回は私間違ってないでしょ!?

 めっちゃ気を使って話を振って、なのに無視され続けたんだよ!?

 どう考えてもひどいでしょ!?」


『あなたの価値観で男性を推し測らないでください』


「え、ええ……?」


『男性は食事をしているときは、食事の事しか考えていません。

 あなたが食事中に話しかけているのは、男性に対して

 『今の気持ちはどうですか!?』と食事&インタビューを課しているのと同じです』


「えええ!? でも、ドラマとかで食事しながら商談してるよ!?

 男の人ってそういうものじゃないの!?」


『それは仕事と食事が8:2くらいの比率です。

 バイキングで商談をしないように、食事があくまでもサブです。

 しかし、今回の食事では食事が10です』


「食事って、食べるのもそうだけど、楽しい時間を共有するものと思ってた……」


『少なくとも男性にとって、こじゃれた料理を彼女と食べるのと

 牛丼を友達と食べるのとに大きな差はありません。

 話しかけるタイミングは落ち着いたときや、食後にしましょう』


「はい……」


見た目には表情も変化なく、無言かつ無心で、親の仇のように食っているけど

これは本当に満足しているから食事に集中しているのだろう。

話しかけたくなる気持ちをぐっとこらえた。



ピンポンピンポン。クリアです。



『では次の男チュートリアルです。

 あなたが仕事で辛いことがあったとして、それを相談してください』


「シチュエーションがちょっとリアルね……難しそうなパターン。

 ふふ、でもだいたい男心がわかってきたわ」


前のチュートリアルで、男性に話す際にはメカニズムを理解できるように説明とあった。

このポイントを抑えれば問題ない。


「あのね、実は今日仕事で本当に辛いことがあったの。

 私は一生懸命仕事をしているつもりだったんだけど失敗しちゃったの。

 私としてはあの時、こうしておけばと思っていて、あなたの意見を聞かせてほしいの?」


自己採点100点の言葉になった。


自分が何に悩んでいるかを伝えて、相手にどうしてほしいかの道筋まで立てた。

これが相談であることも文脈から確実に読み取れる。完璧だ。


男は腕を組んで、うんうん、とうなづいた後に答えた。



「え? 全然わかんない」



「殺したろかぁぁぁぁあ!!!!!!」



ブブー。クリア失敗です。


「もーー意味わかんない!? どうして!?

 私ちゃんと説明したじゃん! あんなに細かく!!

 なのにわからないって、話聞いてない方が悪いでしょ!?」


『あなたの相談を語る部分は問題ありません。

 ただし、相談の切り出し方が問題でした』


「えーー? おかしかった?」


『男性はスイッチのON/OFFで生きていると考えてください。

 相談の前には"実は相談がある"など簡単でいいので、

 話す内容のタイトルを事前に話すようにして、

 男性の"話を聞くモード"のスイッチを入れるようにしてください』


今度はちゃんと話しかける前に「実は相談があるの」と前置きしたところ、

テレビを消して、真面目に目を見て聞くようになった。


話をしながら、男の体のどこかにスイッチが本当にあるのではと毛根あたりを目で探った。



ピンポンピンポン。クリアです。



『おめでとうございます。男チュートリアルクリアです。

 では次の――』


「あーーストップストップ!! もういい! もう限界!

 男って超めんどくさいってことは完っっ全に理解した!」


『チュートリアルを続けますか? はい いいえ』


「もういいわよ。男チュートリアルなんて。

 そもそも私がここまで合わせなくちゃいけない方がおかしく感じてきたもの」


『ではチュートリアルを中断します。

 出口はこちらです』


出口のドアが開くと、待っていたのは別の世界だった。


『こちらは、女チュートリアルを突破できなかった人間だけの世界です。

 リタイアした人の世界はこちらになります』



「なんで男が家事をしなくちゃいけないんだ!」

「男の浮気は甲斐性だ! 生物的な本能だ!!」

「妻は夫をたてて、常にキレイにしているのが普通だろ!!」



私はすぐにUターンして、チュートリアルの入り口に戻った。



「お願いします! やっぱり男チュートリアルやります!

 あんな世界で生きるなんて、おとこわりです!!」



『ただしくは"お断り"です。では男チュートリアルの続きを始めましょう』

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