第1話 落ちて落ちてどこまでも

 受験というのはシビアなもんで結果がそのまま評価につながる。しかもスポーツと違って競う部分が終始同じなわけじゃないし、そもそも競技人口が多すぎて…まあ国民だったら人間だったら基本的にはやらねばならないものだ。


 そんな中俺はというと小学生の時、学校でも塾でも天才の名をほしいままにしたわけだが、(ちょっとくらい大げさでもいいよな…)いざ受けてみるとこれが驚き第1志望も第2志望も落ちて受かったのは本来なら受ける予定もなかった第3志望の武美川学園だった。

 

まあ正直落ち込んだ。なぜなら第1志望の学校は国内で一番頭のいい学校だったがそれこそ余裕で受かるはずだったから。今でこそ立ち直っているものの当時中学生だった俺は中学時代を無気力に過ごした。いや、過ごしてしまったというべきかもしれない。

 

 その上この新日本帝国は3年前に大学制度が廃止され、各大学機関はそれぞれ研究機関として独立した。だから高校卒業で社会人になる。つまり中学を棒にふるった俺は残り3年間しか学生としての時間は残されてない。

 まあ俺の過去はこんなもんでいいとして、そんなこんなで俺の高校生活は始まった。


「はーい。はじめるよー。今日の日直さん誰ー?」

「起立。気を付け。礼。」

 

俺は今日で武美川学園高等部一年A組の生徒になった。俺の席は窓際の前から三番目。よくある席である。前には中等部の一年の時から同じクラスの緋色 鈴華、右には初めて同じクラスになった五月 千尋、そして後は同じクラスになったことはないもののアニメやライトノベル関係のつながりがある上水 光輝が座っている。

 

ちょっと待て、今アニメと聞いてすぐさま俺をオタク認定しようとしたそこの君。どうせオタクだから陰キャだから隣が初めての女子で緊張してるんだろうとか思ったか。残念ながら俺は女子に対するスキルは高い。なぜなら俺はオタクじゃないからだ!!

 そこで丁度次の授業が分からないので隣の女子に聞いてみよう。


「あの…次の授業ってすうがくでしたっじぇ?」


 気づいた人もいるかもしれない。この新学年始まって最初にしかも初めての女子にオタクじゃない俺はものの見事に噛んでしまった。チョー恥ずかしい。でっでもべつにきんちょうしてたわけじゃないんだからねっ!


「次の授業は世界史ですよ。」


 と彼女は少し笑いながら答えた。

 

 ここ武美川学園では新日本帝国の教育制度に国内で一番影響されてるといっても過言がない学園なので、当然成績の低い生徒に対しては周りの反応も先生の反応もあまつさえ保護者達からの目線の冷たいものがある。しかし別に反抗をしているわけではないが俺は勉強に疲れた。受験でどんなに努力しても報われないとそう決め込んでいた。だから当然の如く勉強をしなかった。するとみるみる成績は下がり中学を卒業するころには下から数えたほうが早かった。


 周りからは馬鹿にされ、相手にしてくれていたのは光輝だけだった。皮肉な話だ。学力でしかそれも実力なんて計れるわけもない定期テストなのにな。

 するとそれが災いしたのか帰りのHR後事件が起きた。

 

「無いな…なあ光輝俺のリュック知らねえか?」


 いつものように帰ろうとしてリュックを背負おうと机の横を見たら俺のリュックが消えていた。普通の人間なら周りに一緒に探してくれと頼むかもしれない。しかしここではそうはいかない。成績の低い俺なんかは話しかけても基本無視される。それどころかこれで誰かが盗って隠すなり捨てるなりしても成績が低い以上俺が悪くなってしまう。これが学歴社会にさらに学歴を詰め込んだ結果なのだろう。ただそんな俺でもいつも一緒に話してくれたり昼飯を食べたりしてくれる光輝のよすが今回は少しおかしかった。


「俺は知らねえよ。それから…もう金輪際俺にかかわらないでくれ。お前の馬鹿が移る。」


 そう言い捨てて光輝は教室を出て行った。その先にはくすくすと馬鹿にしたかのように笑っている連中がいた。


「そういうことか…光輝お前は…」

「なあそこの馬鹿野郎さんさあ、リュック落ちてたから捨てといてやったぜ。ぎゃははははは。」


 連中らは俺のことを馬鹿にしたように下品な笑いを上げた。そこには光輝の姿もあった。光輝も一緒になって笑っていた。その時俺は気づいた。光輝は俺と罰ゲームのようなもののために一緒にいたのだと。


「俺のリュックどこにあるんだ?」

「は?お前のことなんかだ誰が気にかけんの?うぬぼれんなよっ!」


 そして連中の内の一人が俺の前に来てみぞおちを殴った。


「かはっ…」

「だいたいさお前いつまでこの学園にいるんだよ。とっとと退学しちまえよ!」


 すると連中は俺の周りに集まってきた。


「なあ見ろよ。こいつ小鹿みたいに震えてやがるぜ。」

「まさかこんなんで気絶とかやめてくれよなっ。」


 俺は意識がだんだん朦朧としていく中で悲しんだ。それはリュックが盗まれたことでも囲まれて殴られたことでもなかった。ただ、同じ趣味で盛り上がってきた少しでも親しいと思った友人が成績が低いことでで現金に態度を変え蔑んだような目で見ていて、あまつさえ俺のことを騙していたことだった。

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