江戸桜
@tatuya4869
第1話 出会い
私が生まれてから15回目の桜が散る。
少し開いた障子の隙間から綺麗な桃色の淡い雨が降っている。
私はずっとここで桜が毎年散るのを見ているが、いつ見ても桜はとても綺麗だと思う。できればこの重く暑い布団の中でなく外に出て心地の良い風にあたりながらゆっくりと眺めてみたい。
だけどそれは叶わぬことで毎年この薄暗い部屋から眺めては悲しい気持ちになってしまう。
みむらは生まれながら体が弱く色素の薄い少女である。髪の色も卯の花色で瞳も飴色なので小さい頃はよくいじめられていた。
『みむら、起きていたのか?桜を見ていたのか、とても綺麗な桜だな。』
みむらの兄・修蔵が部屋に入ってくる。
『お兄様。えぇ、本当に綺麗。できればこの部屋からでなく外で見てみたいと思うけど・・。』
『みむら。』
兄は気の毒そうに目を伏せる。
道場の娘である『みむら』は修蔵の本当の妹ではなく母方の兄の娘である。
まだみむらが小さいときに両親揃って火事で亡くなり生き残ったみむらを義母であるお菊が引き取ったのだ。
だが、みむらは体がとても弱く外に出るとすぐに熱を出したり体調が悪くなったりするので義母のお菊はあまりよく思っていない。
『ただでさえ望んでいないのにこうまで体が弱かったらただのお荷物だね。』
お菊はみむらに辛くあたる。修蔵もそれを知っているから余計に気をかけてくれる。
『お兄様、今日は道場のほうはよろしいのですか?』
『あぁ、今日は父に大事なお客人がいらしているから休みにしたんだよ。それよりみむらはきんつばが好きだろう?』
修蔵がきんつばを買ってきてくれたのでみむらは喜んだ。だかそれと同時に申し訳ない気持ちにもかられる。
『お兄様、申し訳ございません。いつも気を使われてしまい、このような事がお母さまに知られたら・・』
『なに、お前が気に病む事などないよ。可愛い妹の為を思えばだ』
修蔵はエッヘンというように胸を反らせる。修蔵は誰にでも優しく明るい性格であり引っ込み事案で思ったことをうまく伝えられないみむらにしたら憧れで自慢の兄である。
『あっ、そうだみむら私は今から父上の所にいくから、もし誰か来てもむやみに出たり障子をあけたりしてはいけないよ?いいね。絶対だぞ?』
『ふふ、えぇご安心くださいお兄様。そのような事は致しません、相変わらず心配性なんだから』
軽く笑って見せたら修蔵は怪訝そうな顔をする。
『そう笑っているけど何があるか分からないんだぞ?世の中には情も涙もない奴だっているんだ!そうだ、若い女の子を食い物にするやつだっているんだ!自分の容姿が並外れていいからって人の妹にまで何かするかもしれないやつだって・・』
『・・・・お心当たりがあるんですか?』
修蔵は言った途端に顔を思いっきりしかめる。しまいには今のは聞かなかったことにしてくれ、と言われそそくさと部屋を出て行ってしまう。
兄の周りにはそのような人がいるのだろうか、と一人で考えていたら義母お菊が部屋に入ってきた。
『全く修蔵は実妹でもないのに何であんなに優しくするんだろうね、気がしれないよ。お前も優しさに甘えてないで少しでも体を丈夫にする方法を考えなよ』
『・・はい、申し訳ございません。お母様』
『その体では嫁にもいけないし貰い手もないだろうけどいつまでもここに居られても困るんだ、いいね?』
『・・・はい。』
お菊は言いたい事だけを告げ部屋を出て行ってしまう。
外を見ると綺麗な桜が舞っていて淡く照らす太陽の光で更に霞んで見える。
『お嫁にもいけないし誰も私を貰ってもくれない・・・か。』
一人呟いてみると何とも言えない感情があふれ出てきてしまう。女に生まれたからには恋をして好いてる男と結婚をして子を授かってとか言うけどそう出来ない女も沢山いる。それが女の幸せと断言していいものだろうか。
このまま好きな人もできず一人この部屋で年老いて死んでしまうのか、そう思ったら胸の奥が暗く騒ぎ気持ち悪くなる。
『一度でいいから人を好きになってみたいな。』
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