追放少女、最強の錬成師《ビルドマスター》として街を救う!?

早乙女らいか

第1話 追放

「ステラ、最近の流行りを知ってる?」

「ん? やたら派手なスイーツとか?」

「違う違う、そんなしょぼい流行りじゃないよ。いいから、心して聞くように……」

「はいはい……」


 とある草原。

 休んでいる最中、勇者パーティーのリーダーであるオーランドに絡まれた。

 赤毛の髪が特徴的な少女でパーティーを引っ張ってきた。

 しかし流行りを好む性格なのがたまにキズだ。

 オーランドの流行り話は大抵がくだらなく、起承転結もしっかりしてない為、毎回毎回眠気との勝負になる。

 はぁ、今回は何分かかる事か。


「最近、勇者パーティーのレベル低下が問題になっているでしょ? それを解決できる方法が見つかったんだ」

「へぇ、オーランドにしては面白そうな話を持ってきたじゃん」


 珍しく、アタシでも興味を引く話だった。

美容とか激辛料理等、いつもありきたりな話ばかりだったのに趣向を変えてきたようだ。

 というか、今まで自分の話がつまらない、という自覚はなかったのか。


「いつもつまらないみたいに言わなくても」

「だって事実だし」

「はぁ……まぁ勇者パーティーのレベル低下だ。んで……」


 オーランドが続きを

 勇者パーティーというのはその名の通り神様から勇者に選ばれた者達の事だ。

 勇者に選ばれるだけあって何かしらの才がある者達だが、最近あまりにも増えすぎた勇者達のレベル低下が問題になっている。

 原因としては引きこもりが選ばれたり、勇者を名乗る者が名前だけ利用して修行をサボったり……とにかく優秀でもないのに勇者を排出しすぎたのだ。

 アタシもその排出しすぎた勇者の一人の為、余り文句は言えないのだが……。


「パーティーで一番弱い奴を追放させる事で勇者パーティーの実力をあげる事が出来るらしい」

「へぇ……どうして?」

「よくわかんないけど弱い奴を排除する事で冒険の効率が上がる……と雑誌に書いてあった」


 なんともざっくりした理由に呆れてしまう。

 弱者を排除し、強者だけ残らせるというのは何となく理解できる。

 だが根拠も無いのに排除される方からすれば溜まった物じゃない。


「で、なんでその話をアタシに?」

「そうそう、ここからが重要だ」

「ん?」


 周辺の整理をしながら聞いていると、オーランドの声色が突然変わった。


「ステラ、今日で勇者パーティークビね」

「は?」


 どういう事?

 アタシ、頑張ってパーティーに貢献していたよね。

 交渉とか武器の手入れとか、地道な事でかなり頑張ったよ?

 それを「流行っているから」の一言で追放されるなんて意味がわからない。

 理不尽すぎる状況に、私は原因と事実にしばらく困惑していた……。


 ◇◆◇


「……じゃあもう出るよ。後、二度と顔合わせないで」

「おう、さっさとでていけコノヤロー」


 棒読み気味にアタシを追い出すオーランド。

 始めは追い出す理由を問い詰めていたが、


『雑誌に書いてあったから』

『今月星占い最悪だから』

『後なんかムカつく』


と、段々適当な返答しか返ってこなくなりアタシも遂にキレた。

 弱くても個性を生かして魔王を倒そう! と意気込んでいたリーダーはどこへやら。

 今では流行りに頼り続ける、思い込みの激しい子になり果ててしまった。

 これでも実力は指折りだし他のメンバーから信頼はされているが……非常に残念である。


「じゃ、アタシ行くから後の事は……」

「ま、まって! お金と武具置いてないじゃん!」

「は?」

「持っている物全部置いていかないとダメなんだよ! 雑誌にもほら!」


 雑誌の一ページには『追記:所持品とお金も奪いましょう。出ないと死ぬよ☆』という一文が片隅に載っていた。

 勇者様のヘタれぶりもそうだが、この頭の悪い文面にもかなり腹が立つ。


「これくらいいいでしょ……何をそんなに」

「置かないと死ぬんだよ!? 私、強くはなりたいけど死にたくはないの! だからお願いだよぉ~!」


 身体をブンブン揺さぶってくる勇者オーランド。

 最近では強さに拘る余り、変な迷信や宗教に手を出し始める……と絶賛迷走中。

 ああ、もうわかりましたよ。

 最後くらい勇者様が信じる雑誌とやらに付き合ってやろうじゃないの!


「ぶぇ!?」

「全財産と所持品……これで満足でしょ! オーランドなんてもう知らない。流行りに飲まれて地獄に落ちろバーカ!」


 全財産と所持品をオーランドの顔面に投げつけ、アタシはこの場から去った。

 リーダーがおかしくなってから抜けようとは思っていたし丁度いい。

 ソロの冒険は久しぶりだが……まあなんとかなるだろう。

 話術とこざかしい魔法には自身があるし大丈夫。

 まあ、最後くらい他のメンバーに別れのあいさつがしたかったが……全員実家に帰ったからなあ。

 仕方ない、気持ち切り替えていこう。


◇◆◇


「で、どこに行こうか……」


 ラムダの街。

 アルストリア国内に存在する小さな街だが、目ぼしい観光スポットや特産物が無く、世間では行く価値のない地味な街だと言われている

 が、前に一度来たときは人当りもよく、食べ物も豊富で物価も安いし何より居心地が良かった。

拠点にするにはピッタリだろう。

 が、これからどうしよう。

 アタシの魔法は錬成やアイテム生成等サポート特化で戦闘にあまり向いていない。

 クエストを受けようにも簡単な物はランク制限で勇者パーティーメンバーは受諾する事を禁じられている。

 受諾可能なクエストはソロだとほぼ死亡確定だ。

 そもそもアタシが今まで何とかなったのは、味方に攻撃を任せ、裏からちょいちょい補助していたからであって……


「積んだ……」


 無計画に飛び出したせいで稼ぎ所が見つからない。

 バカだ私。

 これでは流行り厨のクソリーダーと余り変わらないじゃないか。

 はあ、結局アタシもあのパーティーのメンバーだった、という事か。

 流行りに飲まれながらも順調な冒険をしていたオーガストは案外優秀な存在だったんだな……。


◇◆◇


「でさぁ……追い出されて仕事は無くすは勇者プレートのせいでギルドの依頼が受けられなくてお金が稼げなくて……ネメシスさん聞いてる?」

「聞いてるわよ。こうして今、拾った金で安酒飲んでるって話でしょ?」

「ならいいけど……はぁ、もう冒険者なんて辞めたいよぉ……」


 飲み屋街の一角、安酒を一気に飲みほしたアタシは、行き場のない愚痴をカウンターに一人立つ紫髪の女性にぶつけていた。

 あの後、私はものひろいスキルや金属探知魔法で金目の物を徹底的に拾い集めた。

 急に出来る仕事なんて無い、だからこそ手軽に出来る物拾いから始めたのだが……物拾いで稼いだ額はたったの五百アクア。

 この街の宿は一泊千アクアの為、泊まる事が出来ない。

ヤケになったアタシは飲み屋ではした金を使っているのだった。

 

「まあ、生きてれば不幸もやって来る。だけど幸運もやって来る。今日不幸だったなら、明日は幸運が来るかもしれないわ」

「ネメシスさん……うっ、ぐす……」

「ほら、これでも食べなさい。私の奢り」

「ありがど、う……ございまず~……」


 そう言って差し出して来たのはチャーシューの炙り焼き。

 じっくりと煮込まれたチャーシューが炙りにより香ばしい香りを立てており食欲を掻き立てていく。

ネメシスさん……常連でもないアタシの愚痴を聞きチャーシューまで奢ってくれた。本当にいい人だなぁ……。


「あむっ、むぐむぐ……おいしい……」

「ならよかった。後、ここには気軽に来てくれていいのよ。どうせむさ苦しいおっさんしかこないし、あなたみたいな美少女ならいつでも歓迎よ」

「おやっさぁ~ん」

「ま、今日は思う存分吐き出しなさい。それくらい、いくらでも聞いてあげるから」


 酒に溺れるアタシを包み込むような視線で見つめるネメシス。

 パーティーを抜けてから初めて人の暖かさに触れた気がする。

 冒険をしていると色んな街による機会があるが、ここ程居心地がいいのは久しぶりだ。

 ラムダ……経済状況や外観が問題視される街だが人はとてもいい。

 ある程度お金が溜まったらここを出ようと考えたがやめた。

 もうここに一生いよう。

 謎の魅力が包み込み、アタシの気分を良くしていったが……

 

「んく、んくっ……ぷはっ、ネメシスさんおかわり……これより強い奴ぷりーず」

「はいはい。あなた大丈夫? 結構飲んでるし明日の仕事に響かない?」

「大丈夫……どうせ何やっても怒られます……しょぼーん」


 近くのカウンターでおつまみと酒を交互に飲む少女がいた。

 腰まで伸びた透き通ったように美しい黒髪。

少し動いただけで揺れる白いワンピース。

 目鼻立ちもよく、こんな廃れた酒場では浮いてしまう美貌。

 そんな美しい少女が、私のより度数が強いお酒を湯水の如く流し込んでいる。


「ん……お姉さん来て……」

「え、アタシ?」

「うん……茶髪のお姉さん、一緒に飲みましょう……一人酒は楽しくない……むーん」

「あ、うんわかった……」


 黒い瞳に誘われ傍に行くアタシ。

 なんだろう、独特な話し方をするんだな。

 でもこの町じゃ普通……なのかもしれない。


「アタシはステラ、あなたは?」

「ヤミシノ……詳細はここです」


 ヤミシノ、そう名乗った少女はポケットから名刺を取りアタシに差し出した。


「何々……え?」


 名刺を受け取るとそこには衝撃の事実が書かれていた。

 ありえない。こんなに凄い人がラムダの街にいる訳が……


「職業、神様……?」

「いえーす……私、神様なんですー。驚いた? 驚いたな?」


 名刺の職業欄には神様、そう書かれていた。

 まさか目の前にいる少女が神様、な訳がない。

 アタシはそこら辺の事情徴収も含めてヤミシノと酒を交えた交流を深めていこう、そう決意した。

 嘘でもこの子色々と面白いしね。

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