徴兵するリアル

徴兵するリアル

全然分かっちゃいない。

このゲームは全然分かっちゃいない！！

確かにグラフィックは素晴らしい。

戦場の臨場感に加えて視野角や明度そのすべてがこれまでのゲームを大きく凌駕していて、まるで戦地の生々しい大気がこちらまで流れ込んで来るようだ。

だが、それでもプレイヤーが求めているものとはかけ離れている。

俺は額から流れる大粒の汗をぬぐって重すぎるコントローラーを握りなおした。

複雑性が高すぎる動作にスタミナシステムの設定は俺みたいなライト層のユーザーには向いていないし、選んだキャラクターごとに性能差がありすぎて不公平極まりない！

その上これだ！！

たった一発。たった一発だぞ！

それも頭じゃなくて腹。

数多のFPSでは致命傷にすらなり得ないダメージなのに、俺のキャラクターはそれだけで全くコントロールが効かなくなった。

ダメージによる痛みで画面は朦朧とし、まともに歩くことすら叶わない。

息を整えるためにもたれかかった壁からは生暖かい血痕が染みつき、赤い血だまりが出来た。

よくできてるよ！ほんとによくできている！

こんな細部まで再現するんだからな。

それにあいつらは薄情野郎どもだ。

俺のチームは俺を残してすでに撤退しやがった。

インカム越しに聞こえた「すまない」なんて謝罪は自分への言い訳でしかない。

だって、戦地に残る俺は息を殺して、生き延びる道を探すしかない。

いっそのこと単身敵地に突っ込んでやろうか？

そいつもいいな。

どうせ生き返るんだ。

初期位置にリスポーンするんだ。

ここで死んでも、もう一度やり直せばいいんだ。

次はもっとうまくやればいい、隊を組みなおしてＢ地点を背にしてサイド攻撃を仕掛けよう。

いや、むしろ正面からスモークを焚いて奇襲を仕掛けたっていい。

それどころか、一端電源を落としてジュースを飲んで一息入れたっていい。

そう。どうせこれはただのゲームなんだから・・・

そうだ！そうだ！そうしよう！

それがいい！

それがしたい！

だから、

だれか、

そうだと言ってくれ・・・