第108話〔仲間美紀の波紋〕
高安女子高生物語・108
〔仲間美紀の波紋〕
カメラのランプが赤に変わると、MNB47座長の嬉野クララさんが静かに語り始めた。
「MNB47の座長嬉野クララです。今日は、みなさんにご心配、ご迷惑をおかけしたことを、まずお詫びいたします。ファンの皆さんのお引き立てと応援でMNB47はここまでにしていただきました。そして6期生は特にみなさんのご支援のおかげで『VACATION』、空前のヒットをさせていただきました。わたしたち1期生をはじめメンバー、スタッフは大変喜んでおりました。しかし、みなさんの応援、ご支援に、まだ十分なお返しをする前に、大変な事故を起こしてしまいました。6期生のメンバー仲間美紀が、過労から自損事故を入院先の病院でおこしました。幸い発見が早く、大事には至りませんでした。動画サイトや新聞、テレビを通じてご承知のこととは存じますが、仲間美紀の異変に気づき、いち早くその救助をしたのは、6期生チームリーダーの佐藤明日香でした。わたしたちは6期生はじめ、まだまだ未熟ではありますが、前を向く気持ちと、ファンのみなさんの気持ちを第一に、頭を打ちながらではありますが関西を代表するアイドルグループとして精進していく決心です。仲間美紀は、しばらくの間休養させます。このような大事を起こしてしまいましたが、MNB47は一日も無駄にせず、みなさんのお気持ちご支援に沿えるよう努力いたします。ご心配、ご迷惑をおかけしたことを、いま一度お詫びいたします」
クララさんが頭を下げて、カメラはうちに向けられた。
「わたしは、MNB47のメンバーになって二月あまり。チームリーダーになって一か月ちょっとにしかなりません。しかし、どの世界でもリーダーになった時から十分に注意を払い、チームを引っ張っていく責任があります。仲間美紀の事故は、たまたまわたしが一番早く気が付き、対処できましたが、仲間をはじめメンバーの統率やケアに気が回らなかったのは、わたしの責任です。今後は、こういうことの無いように、いっそうの努力に努めます。これからも、MNB47、なにとぞよろしくお願いします」
カメラがロングになり、あたしとクララさんのバストアップになり、二人そろって深々と頭を下げ、カメラのランプが消えた。
「ありがとうございました、クララさん。6期のミスにつきあわせてしもて」
「座長は、あたしよ。こうするのが当たり前。そやけど美紀ちゃん、大したことのうて、ほんまによかったね。動画に撮られてなかったら、こんな大騒ぎにならんと済んだのにね。ま、これで一区切り。前向いていこ、前向いて。な!」
「はい!」
録画したものは、すぐに動画サイトに流されていた。これで、ちょっとは収まるやろ。せやけど、ウソが一つあった。
美紀は……休養やのうて引退や。
けど、それは伏せた。カッターナイフで手首切って自殺しかけ、そのことで引退いうことになったら『VACATION』そのものができんようになってしまう。プロモも二回撮った。オリコンチャートも順調。ここで止めるわけにはいかへん。
うちとクララさん、ほんで笠松プロディユーサーで、仲間美紀の病院に向かった。ダブルスタンダードかますために……。
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