第94話〔うかつやった……で、すむか?〕
高安女子高生物語・94
〔うかつやった……で、すむか?〕
再婚同士の連れ子は法的には結婚できる。
法律的にはそやけども、美枝自身もはっきり言うてたことやけども……ほんまにするとは思てなかった。
――そら、うそや――
心の中から声が聞こえる。うちの内心の声か正成のオッサンかはようわからへん。そやけど、最初に思たのはそれやった。
二か月ほども前から、うちは美枝の気持ちは知ってた。
「連れ子同士やけど、結婚はできる」
美枝の、その言葉を、うちは、どこかでスルーしてきた。なんちゅうても、美枝は、まだ十七歳。うちもそやけど。
結婚とか、妊娠とかは、まだ子供のあこがれ程度にしか受け止めてなかった……いや、ウソや。
高校生の妊娠騒ぎは、けっこうあるのんは知ってた。お父さんも現役の教師やったころ、ときどき、この問題で走り回ってた。連れ子同市の結婚も、多くはないけど、普通にあることも知ってた。
偶然やったけど、美枝の家に行く前に寄ったコンビニで、美枝のお兄さんがコンドーさん買うてたのも見てる。せやから、美枝が妊娠することは無いと、どこかでタカをくくってた。
いや、ウソや。ゆかりは、しっかり知ってた。友達としての寄り添い方が違う。
うちはMNB47に入ってしもて、正直きつい毎日。別のうちの心が「しゃあないで」と言うてる……それも、そうかなと思う。うちは美枝から最初にお兄さんへの気持ちを聞いたとき反対はしてる。
それは言い訳のアリバイや。また、心のどこかが呟きよる。
MNBのレッスンは、この二日さんざんやった。
「どうしたの、明日香全然だよ!」「いいかげんにしなさい!」一昨日も昨日も夏木先生に注意された。
「たとえ親が死んでも、平気でやれなきゃ、この世界は通用しないのよ!」
夏木先生の理屈は、その通りやけど、気持ちが素直には着いてけえへん。
――うちは、メッチャ忙しい。友達としてうかつやった。そやけど……それで済むか?――
うちの頭は、この三日間同じとこをグルグル回ってる。
今日も、そんな気持ちを引きずりながらMNBのスタジオにまで来てしもた。スタジオが入ってるビルの手前でカヨさんが待ってた。
「ちょっとええ?」
カヨさんに、ビルの南側の道に連れていかれた。ビルと車道に止まったバンの間で、カヨさんは振り返った。
「今からしばく」
真剣な目で見られた直後、左のほっぺたに痛みを感じた。小学校の時、お母さんにしばかれて以来やった。
「カヨさん……」
「うちらはプロや。外のことは引きずってきたらあかん! なにがあったか知らんけど、ちゃんとレッスンに来られてるいうのは、大したことやないか他人事や。そんなんでうちらの足引っ張らんといて。友達やから、一回だけは言うとく」
そない言うとカヨさんは、さっさとスタジオの方に行った。
いろんなもんがせきあげてきて、涙がぽろぽろこぼれてきた……。
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