第90話〔そういう訳やないねん……〕

高安女子高生物語・90

〔そういう訳やないねん……〕        



 死者2重軽傷者8の大事故やった!


 あの時、うちの靴紐が切れへんかったら、確実に巻き込まれてた。亡くなった人は、うちらのすぐ前を歩いてたサラリーマンの人らやった。



 うちとカヨさんは、しばらく動かれへんかった。

 ほんのちょっとした運命のイタズラでうちらは助かった。ほんで目の前で血ぃ流して倒れてる人ら。

 警察を呼ぶ声! 救急車を呼ぶ声! 倒れてる人らを励ます声! あたりは騒然とした。


 ほんで、警察と救急車とマスコミが同時に来た……。


 あくる朝、お母さんに言われて気が付いた。10人も死傷者が出たんで、ニュースは全国ネットで流れた。なんとスンデのとこで巻き込まれそうになった代表みたいに、うちとカヨさんがニュースに出てたらしい。それもモザイクなしで。

 うちは覚えてへんかった。とにかく、足が震えて、その場を動かれへんとこに、なんや人が寄ってきたぐらいの記憶しか無かった。

 けっこう喋ってた。事故や、事故前の様子。ほんで、自分らがMNB47の研究生やいうことを……。


「あんた、覚えてた!?」


 朝やけど、カヨさんに電話した。

「なんや、アスカ覚えてへんのん? 難波テレビのインタビュー受ける前に、事務所に電話して許可もろたん、あんたやで」

「おい、明日香、新聞の三面のトップやで『またしても脱法ハーブの惨禍! MNBメンバー危うく難を逃れる!』


 そのあと、うちがやったことと思うたことは二つやった。


――あれ、助けてくれたん、正成のおっちゃん?――

――感謝せえよ……といいたいけど。わいにも分からん。出雲阿国ちゃんとちゃうかな?――

 で、カヨさんにメールで聞いたら「阿国さんも正成はんとちゃうかて」と返ってきた。偶然か、うちらの運の良さか……?


 ほんで、学校に着いてからが大変やった。


「そういう進路にかかわることは、早よ、担任に言え!」と、ガンダム。

「佐藤さんには幸運の女神さまが付いてるんやわ」宇賀先生は喜んでくれはったけど、先生の傷を思うたら複雑な気持ち。

「なんで、アスカは言わんのかな!」これは、美枝とゆかり。

「アスカ、アイドルだね。事故とスキャンダルはスターの条件だからね!」この変な励ましは麻友。


 みんなの質問に共通してたんは、なんでMNB47のこと黙ってたか。


「やっぱり、言うたらあかんことになってるんやろ?」

「明日香の奥ゆかしいとこやねんな!」

「もう、選抜になるねんやろ?」

 と、いろいろ言うてくる。


 そういうわけやない。


 ガンダムに、進路選択迫られて、いろいろ体験入学やら申し込んでる中に、MNBがあっただけ。うちは、どうも人からズレてる。

 関根先輩からも「がんばってんねんな。今度のことは無事でなにより!」いうメールが来た。

 お礼のメールは打っといたけど、それだけ。

 今日は、うちの苦手なリズムのレッスンがある。


 タ タン タ タン タン タン………タ タン タ タン タン タン………ムズ!


 五拍子のリズムなんか、だれが作ったんや! そない思いながらも、歩きながらリズムをとる明日香やった……!

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