第84話〔MNB47オーディション〕
高安女子高生物語・84
〔MNB47オーディション〕
100人ほども、おった!
MNB47のレッスン室前の廊下から、突き当りの階段の踊り場までちっこい折り畳みの椅子が並んでて、その椅子と同じ数だけの女の子が、お喋りもせんと行儀よう並んで座ってるのは奇観やった。
ざっと見渡して、うちより年上は、ほとんど居てへん。中には、どない見ても小学生いう子もおって、ティーン女子の見本市。
これは三つ前の81の話読んでもろたら分かるねんけど、お父さんとお母さんがガンダムに言われてやった、オープンキャンパスの申し込みに紛れてた一つ。今はパソコン一つでなんでもできる。「高校生進路」で検索して、あっちこっちに申し込んだ中の一つ。犯人はお父さん。進路希望を「演劇関係」と書いたもんやさかい、MNBやったら手っ取り早いし、書類選考に残るかどうかで、可能性も分かるという、オッサンらしい浅はかさ。
けど、書類選考に残ったいうことは、書類上とは言え、勝負に勝ったいうことや。応募は2800人もおった言う話やから、2700人は蹴倒したことになる。河内女の頭では、これを受けへんかったら「もったいない」という七文字の単語に行きつく。
で、後先も考えんと実技選考オーディションに来たいうわけ。
自分で見えるとこを見渡しても、絶世の美少女から、吉本受けたほうがええのにいう子までおって、見ばの点では、うちは平均どころ。この中から最高でも20人しか合格でけへん。うちは、その倍率だけで燃えてきた。
MNBのオーディションは「動きやすい服装」とあるだけで、なんにも書いてない。チノパンにTシャツいう子が多かったけど、中には宝塚と間違うてレオタードいう子もいてた。うちは学校のハーパンとTシャツ。なんせ家から40分のとこやさかい、近所をジョギングするようなナリになる。
課題は「当日会場で発表」とあるだけで、なんにも書いてなかった。さすがに大阪のアイドルグループだけのことはある。
五人ずつが会場に呼ばれる。うちは八番目の席にいてるから、第二グループになる。
「これて、なんの順番ですか?」
つい、いらんことを聞いてしまう。
「コンピューターが無作為に選んだだけ。先着順いうのも面白ないからな」
担当のニイチャンは、ええかげんな返事をして、最初の5人を中に入れた。二十分ほどしてその子らが出てきて入れ違いにうちらが呼ばれた。
八番やから、てっきり三番目かと思てたら、いきなり呼ばれた。
「志望理由はなんですか?」
いきなり聞かれた。相手に気持ちの準備をさせんで、生の姿を見よという大阪らしい対応の仕方や。せやから考えんと答えた。
「負けたないからです」
「何に負けたないのかな?」
「全てです。オーディション受けてる仲間にも、審査員の先生らにも、周りの期待からも、日本中のアイドルグループにも……ほんで自分にも」
うちは、完全に自己陶酔してた。難しくは役の肉体化という。うちは典型的なオーディション受験者になりきってた。なんや自分の一生が、この一瞬にかかってるような気になってた。うちは世界で一番のオーディション受験者や!
質問は、この一つで、すぐに一曲歌わされた。条件はMNBグループの曲であること。これはチョロかった……けど、後になったら、なに歌うたんか忘れてしもた。
次が一瞬戸惑うた。
「なにか得意なことを一分間で見せてください」
この一瞬の戸惑いの隙を狙うて正成のオッサンがしゃしゃり出た。
「河内音頭やります」の「ます」では、もう体がリズムを取ってた。
え~えさあては~ 一座の皆様よ~おい ほいほい ここに出ましたわたくしは お聞き通りの悪声で~ええ よ~いいほいほい♪
うちは河内音頭の頭は知ってるけど、菊水丸さんの新聞詠み(しんもんよみ)みたいに即興ではでけへん。けど、このときはスラスラと出てきた。正成のオッサンがうちの口を借りて、勝手に赤坂城攻防の下りを歌わせよる。
審査員の人らは、すぐにノッて手拍子。ギターとパーカッションのニイチャンが合わせてくれて、なんと5分もやってしもた!
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