第75話〔関根先輩曇り のち 新垣晴れ過ぎ〕
高安女子高生物語・75
〔関根先輩曇り のち 新垣晴れ過ぎ〕
世界七不思議の最新。
なんで関根先輩がうちの運動会におるのん!?
「そりゃ、明日香がリレーのアンカーやるっていうんやから見に来んわけにはいかんやろ?」
サラッと先輩。
「そやかて……うちがリレーの代走に決まったんは、ついさっきですよ。アンカーの子ぉ休んでしもたから」
「え、あ、そやったっけ?」
焦ってとぼける先輩。ウソ見え見え。うちのこと見たいから、あの手この手で家族入場券仕入れたんやろな。胸のポケットに家族のIDカードが覗いてる。フフ、なんか嬉しなってきた。
「あ、ちゃんと写メ撮っといたで。ゴール前でこけたんはビックリして撮りそこのうたけど……」
で、先輩は、スマホを出してスライドショーをやってくれた。競技中のは狙うのがむつかしいようで少なかったけど、応援席にいてるうち、入場門のとこで乙女チックに出番を待ってるうち。ほんで……中学時代の懐かしくもおぞましい写メ。
障害物競争で麻袋穿いてピョンピョン跳ねてるうち。そんで麻袋脱ご思て、うっかりハーパンとパンツ脱ぎかけて半ケツになったうち!?
「な、なんで、こんな古い写メ……なんで、ここだけ鮮明に!?」
「いや、たまたまや、たまたま。写メは消し忘れ」
こういうとこでトボケルのは保育所のころからうまい。まあ、半ケツいうてもお尻の本体が丸々見えてるわけやなし、青春の一コマいうことでええやろ。
「でや、二人で撮ろか」
「うん」
そういうて、寄せ合って自撮りしよ思てたら、声がかかった。
「よかったら、あたしが撮ろうか?」
ブラジルの制服姿の新垣麻衣が、あたしらの前に立ってた。
「あ、麻衣ちゃん、お願い」
「じゃ、いきますよ~」
で、シャッター。再生すると青春真っ盛りの笑顔のうちと先輩。先輩の笑顔が見たことないほどええ。いや、良すぎる……。
「あたし、明日香のクラスに転校してきた新垣麻衣です。こちらは、明日香の彼?」
「あ、この人は……」
説明しかけると、教務の先生が麻衣を呼んだんで、アイドルみたいな返事して、校舎の中に消えていってしもた。
「か、かいらしい子やなあ……」
魂もっていかれたような顔して関根先輩。
「うち、麻衣の世話係やさかい、よかったらサイン入りの写真でももろときましょか?」
「え、あ、いや、それは……あの子の明るさは日本人離れしてるなあ」
「ブラジルからの帰国子女!」
「ああ、ブラジルか。情熱のサッカー大国やな」
そのあと閉会式になったんで、先輩とは半端なまま別れた。気まぐれでも、うちのこと思て見に来てくれたんは嬉しい。けど、正直に麻衣に鼻の下伸ばしたんは胸糞悪い。
――ま、ええやんけ。河内の男は、こういうことには正直やねん――
正成のオッサンがいらんことを言う。
月曜からは大変やった。麻衣は、うちの制服着ても華やかさはまるで変わらへん。朝のショートホームルームの自己紹介も華やかで明るうて、ほんまに、このままAKBのMCが務まりそうなぐらいやった。クラスの男子の好感度は針が振り切れてしもたし、女子もAKB同然に好感を持ったみたい。
うちは慣れへん日本に、それもディープな大阪なんかに来て、さぞかし心細いやろと思て、気遣いと心配は十人分くらい用意してきた。どうも、いらん心配やったみたいです。
で、心憎いことには、うちへの心遣いも忘れてないこと。授業や学校のことで分からんことがあったら必ずうちに聞きにくる。
要は、見かけも気配りも言うことないねんけど、その完璧さが面白ない。嫉妬やいうのは自分でも分かってるんで、なるべく表に出んように気ぃつけた。友達は、いきなり増えても麻衣が気疲れするだけやろと思て、積極的に紹介したんは、伊東ゆかりと中尾美枝の二人だけ。
すると、クラスの子からは「麻衣の取り込みや」いうような顔される。で、そのクラスの子ぉらとの仲を取り持つのも、いつの間にか麻衣自身。
めでたいことやのに、こんなイラついた経験は十七年の人生で初めて。ああ、どないかしてえ!!
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