第62話〔いっちゃんしょうもない〕

高安女子高生物語・62

〔いっちゃんしょうもない〕    



 いっちゃんしょうもない=一番つまらない。


 河内以外の人に分かるように、まず説明しときます。

 一年で、いっちゃんしょうもないんは、この連休明け。これは高校生と違うても分かってもらえると思います。

 で、高校で、いっちゃんしょうもないんは二年生。一年の時の緊張感も夢もない。三年の進路決定が本番近うなってくる緊張感もない。


 去年の今頃て、なにしてたやろ……?


 せや、演劇部入って、本格的な入部が決まって、先輩の鈴木美咲も偉い先輩やと思えた。三年の先輩らは神さま。芝居が上手いということもあるけど、なんや言うことが、いちいちかっこよかった。

「安直に創作劇に走るのは、大阪の高校演劇の、いっちゃん悪いとこや!」

「なんでですか?」

「明日香なあ、戯曲いうたら吹奏楽で言うたら、演奏会でやる曲みたいなもんやで。そんなもん自分らで作るようなとこどこもあらへんわ」

「はあ……」

「なんや、納得のいかん顔してるなあ」

「いえ、そんな……」

 とは言うもんの、ホンマに納得してなかった。中学校の文化祭でも、クラスの出し物の芝居は自分らで書いてた。ほんで、そこそこにおもしろかった。なんで創作があかんのか、うちにはよう分からへんかった。


「ちょっと、付いといで」


 そないいうて、吹奏楽と軽音に連れていかれた。

「オリジナル、そんなん考えられへんわ」

 吹部の部長は、あっさり言うた。ほんで、ちょうどパート練習が終わったとこで、演奏を聞かせてもろた。『海兵隊』と『ボギー大佐』いう、うちでも知ってる曲をやってた。なんでも、吹部ではスタンダードで、一年が入った時は、いつもこれからやるらしい。で、三曲目の曲がダサかった。せやけど、どこかで聞いたことがある。

「今のは校歌や。一応は吹けんとな」


 ちょっと分かった。同じ技量でも、やる曲によって、全然上手さが違うて聞こえる。


 次に軽音。


 先輩が、ちょっと頼んだら、B'zといきものがかりの曲をやってくれた。めっちゃかっこええ。

 軽音に鞍替えしよかと思たぐらい。

「なんか、オリジナルっぽいのんあったら、聞かせてくれる?」

 先輩が、そない言うと、軽音のメンバーは変な笑い方した。

「ハハ、ほんなら『夢は永遠』いこか」

 え、そんな曲あったかいな?

 それから、やった曲はダサダサやった。正直オチョクっとんのかいう演奏。

「これ、ベースのパッチが作った曲。パッチは将来はシンガーソングライター志望。で、ときどき付き合いでやってるんや」


 うちは分かった。戯曲は吹部でいうたらスコア(総譜)みたいなもん。せやから、どこの馬の骨か分からんような人がつくった校歌はおもしろない。軽音のパッチさんが書いた曲はガタガタ。

「な、せやから、戯曲は既成脚本の百本も読んで、やっと本を見る目ができる」

 うちは、その三年生の言葉を信じた。


 ほんで、コンクールでは『その火を飛び越えて』いう既成の本を演った。

 結果は、まえも言うたけど、予選で二等賞。自分で言うのもなんやけど、実質はうちの学校が一番やった。うちが演劇部辞めたんは美咲先輩のこともあるけど、大阪の高校演劇の八方ふさがりなとこ。

 一昨年、鶴上高校が『ブロック、ユー!』いう芝居で全国大会で優勝してテレビのBSでもやってたし、毎朝新聞の文化欄でも取り上げられ平野アゲザいう偉い劇作家も激賞してたけど、去年、この作品を、よその学校が演ったいう話はついに聞いたことがない。今年の春の芸文祭で鶴上高校とはいっしょやったけど、キャパ400の観客席は、やっと150人。


 ああ、演劇部のグチはやんぺ。


 週があけたら中間テストが射程距離に入ってくる。うちは英数が欠点のまんま。夏の追認考査では、絶対とりかえしとかならあかん。


 これでカレでもおったら……美保先輩とは、どこかで勝負や。いっそ、こないだ美枝と行ったラブホにでも関根先輩引っ張り込んで……あかんあかん、飛躍のしすぎ。

 せやけど、あのとき美枝が言うた話……アドバイスのしようもあらへん。それに、美保も、うちに負けんくらいしょうもない顔してる。ひょっとしたら、かつがれたか……?

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