第59話〔フラレてしもた!!〕

高安女子高生物語・59

〔フラレてしもた!!〕       



 フラレてしもた!!


 と、騒ぎ立てるのは早いかと思うけど。感覚的には、まさにフラレた。


 ちなみに、うちは今日で17歳になります。平成○○年5月2日、金曜日、午後3:05に、あたしは上六の病院で呱々の声(産声を格好良う言うたら、こないなる)をあげた。

 なんで、こんなに詳しく生まれた曜日やら時間を知ってるかというと、頭がええから……ではなく、折に触れてお父さんが言うから。


 この日は、6時間目体育館で学年集会をやってて、それが3:05分に終わって、教室で終礼せなあかんよって、トロクソウ歩いてる生徒に「はよ、出え、はよ出て教室戻れ!」て怒鳴ってたから。

 なんせ、終礼を早よせんと掃除当番がフケてさっさと帰ってしまいよる。で……「早よ出ろ!」と言うてる時に、うちはお母さんのお腹から出てきた。それが面白いんか、なにかにつけて、お父さんが言うんで、覚えてしもた。というわけ。


 ほんまは、今日の放課後でも関根先輩が「桃谷のマクドでも行こか?」いうてささやかにマックシェ-クかなんかで「誕生日おめでとう」言うてくれたら、うちは、それ以上のことは望まへん。

 誕生日は、こないだメールでさりげのう教えたある。なんか言うてくるんやったら、夕べのうちやろと日付がかわるまで、スマホ前に置いて待ってた。


 せやけど、電話はおろかメールもけえへん。で、かねて用意のデートの申込みを送信した。


 コースは決めてた。悔しいけど、かねがねお父さんに教えてももろてたデートコース。いくつも教えてもろてたけど、静かにゆっくりをコンセプトに選んだ。


 連休は、どこにいっても人いっぱい。それがめったに人がけえへん絶好のスポット……て、別に飛躍したやらしいことは考えてません。念のため。


 京阪の三条で降りて大津線で蹴上まで行って、インクライン沿いに南禅寺の裏手に出る。途中日本最古の水力発電所やら、レールの幅が4メートルほどある、インクラインが見られる。ほんで発電所の裏側を行くと森の中と言うてええ琵琶湖疎水に出てくる。ほんでから、その支流沿いに森の中を500メートルほど歩くと、南禅寺の水路閣に出てくる。水路閣て、ほら、『けいおん』のタイトルムービーにも出てくるレンガのアーチ、ユイちゃんとかリッちゃんとかが「ワ!」って感じで楽し気なとこ。


 コースの説明つけてメールを送った「もし良かったら、連休のいつでも」と、メッセ。遠慮してるようで、がっついてるかなあ……迷いはあったけど、エイヤと送信ボタンを押す。


 で、5分で返事が返ってきた。


――ごめん、部活と美保との約束があって、一日も空いてない――


 これはないやろ。


 断られるのは半分覚悟してた。せやけど、わざわざ「美保との約束」……ヤケドに辛子塗るような答えせんでもええやんか。

 うちは、鴨居に掛けといたデート用のスカートとカットソー(こないだアマゾンで買うたやつ)を仕舞うて、布団被って寝た。どす黒い後悔が胸の中を蛇みたいにクネクネして、なかなか寝付かれへんかった。


「明日香、誕生日やな、おめでとう」


 学校で、担任のガンダムに言われた。嬉しいよりもキショクワルイ。なんで何人もいてる女生徒の中で、うちの誕生日覚えてんねん!? それが表情に出たんやろ、ガンダムは付け足した。

「クラス持つときに調査書見たら、俺と誕生日いっしょやったさかいに覚えてしもた」

「ほんまですか!? で、なんかパーティーとか、奥さんとデートとか」

「この歳なって、そんなんしてもらえると思うか? もしやりよったら、なんか下心あるんちゃうかと疑うてしまう」

 なんとも味気ない返事。


 一日凹んだままで、帰りの桃谷のホームに立ってたらメールが入った。


――誕生日おめでとう。学――


 心臓が口から出そうやった。で、向かいのホームに気配。

 関根先輩が手ぇ振ってくれてる。うちはジャンプして、思い切り手ぇ振った。

――ほんなら、クラブあるから学校に戻る――

 メール読んでたら、関根先輩は、下りの階段を駆け下りていくとこやった。


 向かいのホームいうのが、ちょっと寂しかったけど。これが、うちと先輩との距離。


 少しは前進。


 そない思て納得した……。

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