第51話『えらいこっちゃ!』
高安女子高生物語・51
『えらいこっちゃ!』
今日は、公式と非公式の「えらいこっちゃ!」があった。
高校二年にもなると、世間の手前「えらいこっちゃ!」と言うとかなあかんことと、心では、そう思てても口に出して「えらいこっちゃ!」と言うたらあかんことの区別ぐらいはつく。
それが、一日に二つとも起こってしもた。珍しい一日や。
世間の手前は、新しい校長先生が来たこと。
世間には、一回聞いたら忘れられへん名前がある。例えば剛力 彩芽。苗字と名前のギャップが大きいんで、この人はテレビで一発で覚えた。これが、特別であるのは、たいていの人の名前は一発では覚えられへんという常識的な話。
新しい校長先生は、府教委の指導主事やってた人。
指導主事や言うだけで、うちはガックリや。何遍か言うたけど、うちの両親は、元学校の先生。せやから、よその子ぉよりは、学校のことに詳しい。
指導主事言うのは、学校現場では使いもんにはならん先生がなるもんらしい。で、校長先生の半分は、教師として生徒やら保護者と協調でけへん人がなってる。新しい校長先生は、その両方が被ってる。せやから、着任の挨拶もろくに聞いてへん。もっとも、本人が前の校長さん以上に話し下手いうこともあるけど。
「どうですか、新しい校長先生がこられて?」
学校の帰りに、テレビ局のオネエチャンに掴まってしもた。
「……今度のことは、うちら生徒には、大変ショックです。せやから新しい校長先生に指導力を発揮してもろて、一日も早く学校を正常化してもらいたいと期待してます」
と、毒にも薬にもならへん、ええかげんな答をしといた。なんせ、その時には、新校長の名前も忘れて、顔の印象もおぼろ。せやから、最初の溜め息は、どないしょ!? いうだけの間。
それが、テレビ局には「傷ついた女子高生の苦悩」みたいに写ったみたいで、他の生徒にもインタビューしてたけど、ニュースで流れたんはうちのインタビュー。なんちゅうても、こないだまでは演劇部やったさかい、悩める女子高生一般なんかチョロイもん。
「学校の主人公であるべき生徒たちは、このように傷つき混乱しています。民間人校長のありようが問われ、なによりも一日も早い正常な学校生活の復活が望まれます」
と、オネーチャンは締めくくってた。どーでもええニュースやったけど、学校の主人公が生徒やいうのには引っかかった。主人公やなんて感じたことない。学校いうとこは上意下達。下々の生徒風情が主人公やなんて、日本の平和は憲法9条のおかげやいうくらいに非現実的。
もう一個の「えらいこっちゃ!」は、関根先輩からメールがきたことーーーー!!
そやかて、うちは先輩のアドレス知らんし、先輩もうちのアドレスは知らんはず……それが、どうして!?
犯人は……正成のオッサンらしい。
こないだ、オッサンのタクラミで、関根先輩に告白させられてしもた。せやけど、正成のオッサンは、スマホなんちゃらいうもんは知らんさかい、アドレスの交換なんかはせえへんかった。しかし、うちに覚えがないいうことは、うちの中に居てる楠木正成のオッサンしか考えられへん。
「やっぱり、オッチャンか?」
「ああ、日々学習しとるさかいな。明日香が寝てる間に、チョイチョイとやっといた。三人ほど電話したら、すぐにアドレス分かったで」
「さ、三人て、だれやのん? なに言うたん!?」
「人の名前て、すぐ忘れるよってな。最後の一人だけ覚えてる」
「だ、誰やのん!!?」
「田辺美保。こいつは明日香の恋敵でもあるさかいな。牽制の意味もこめて電話しといた」
「で、なに喋ったん……いや、うちに何喋らせたんや!?」
「忘れてしもたなあ。まあ、ええやんけ。これで二三歩は関根君に近づいたで。アハハハ」
豪快な笑いだけ残して正成のオッサンは、うちの奥に潜ってしまいよった。
怖いよって、なかなか関根先輩のメールは開かれへんかった……。
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