第14話〔スターとの遭遇〕
高安女子高生物語・14
〔スターとの遭遇〕
偶然目ぇが合うてしもた。
一瞬メガネを取った、その顔は、若手女優の坂東はるかやった。
あたしは、こともあろうに稽古の後、桃谷の駅まで来て、ミスドの前で台本を忘れたのに気ぃついた。
そんで、振り返ったときに至近距離で気ぃついた。
なんかのロケやろか、ちょっと離れたとこにカメラとか音響さんやらのスタッフがいてる。休憩やねんやろな、スターは駅前の交差点で、ボンヤリと下校途中の高校生を見てた。で、あたしは、そのワンノブゼム。
当然、声なんかかけてもらわれへんし、掛けてる間ぁもない。はよせなら、また南風先生に怒られる。
「あなた演劇部?」
無事に台本を取って、駅に戻ったとき、なんとスターの方から声かけられた。
「あ、はい。OGHの演劇部です」
「OBF、そこの?」
「あ、あれは大阪市立の方です。あたし府立のOGH、元の鳥が辻高校です」
「ああ、そうなんだ。それなら、隣の学校だから覚えてる」
あたしも思い出した。坂東はるかは、東京の女優やけど、一時家の都合で大阪に引っ越して、府立真田山高校に転校してきたんや。
「そう、その真田山高に行くんだけど、いっしょに行く同窓生が仕事でアウト。どうだろ、よかったらお供してくれないかな?」
「え……!?」
心臓が、口から出そうになった。スターの一言でスタッフが集まってくる。
最初に、勝山通りのお勝山古墳に行った。前方後円墳なんやけど、勝山通りで前方部と後円部に断ち切られてる。このあたりの地名の元になってるわりには、かわいそうな古墳。
「大阪に来て、編入試験受けるとき、西と東を間違えて、ここまで来て気づいたの。なんだか東京と大阪に絶ちきられた自分の人生と重なっちゃって、ハハハ、情けないけど涙が出たの思い出しちゃった」
「テストは間に合うたんですか?」
「うん、一時間勘違いして早く来ちゃったから」
「あたしら、意識したことないけど、初めての坂東さんには、そない見えるんですね」
「そうよ。この歩道橋が前方部と後円部を結んでるでしょ。なんだか、わたしの人生を結んでる架け橋に見えてね。実際この歩道橋渡って向こうに回って桃谷駅まで戻ったの」
「ええ話ですね。人と状況によって、モノて違うて見えるんですね。いつもコーチの先生に言われてます。物理的な記憶や想像で感情を作っていけて」
「本格的ね。わたしも気が付いたら演劇部に入れられて、コーチからみっちりたたき込まれたわ」
それから車で桃谷の駅に戻って歩き始めた。坂東さんの通学路や。
「懐かしいなあ……そこのマックの二階」
「『ジュニア文芸八月号』 あそこで吉川先輩に見せられたんですよね!」
「よく知ってるわね!」
「本で読みましたから。あれ、ちょっとしたバイブルです」
「ハハハ、大げさな!」
「ほんまですよ。感情の記憶なんかの見本みたいなもんですから。親の都合で急に慣れへん大阪に来たことが坂東さんを成長させたんですよね」
「うん、両親のヨリをもどしたいって一心……いま思えば子供じみたタクラミだったけどね。明日香ちゃんはなに演るの?」
「あ、これです」
「『ドリームズ カム トゥルー』いいタイトルね」
「一人芝居なんで、苦労してます」
「一人芝居か……人生そのものね。きっと明日香ちゃんの人生の、いい肥やしになるわ」
「そうですか?」
「そうよ、良い芝居と、良い恋は人間を成長させるわ」
あたしは、一瞬馬場先輩が「絵のモデルになってくれ」と言ったときのことを思い出した。あれて、芝居で、あたしが成長してきたから?
「なにか楽しいことでも思い出したの?」
まさか、ここで言うわけにはいかへん。編集はされるんやろけど、こんな思いこみは言われへん。
「明日香ちゃんて、好きな人とかは?」
「あ、そんなんは……」
「居るんだ……アハハ」
「いや、あの、それはですね」
あかん、自分で墓穴掘ってる!
「良い芝居と、良い恋……恋は、未だに失敗ばっかだけど」
あたしも、そう……とは言われへんかった。
「あ、真田山高校ですよ!」
「あ、プレゼンの部屋に灯りが点いてる!」
どうやら、ドッキリだったよう。学校に入ったら、本で読んだ坂東はるかさんの、お友だちや関係者が一堂に会してた。
なんや知らんうちに、あたしも中に入ってしもて遅くまで同窓会に参加してしもた。
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