第12話 〔もう、あなたの……〕

高安女子高生物語・12

〔もう、あなたの……〕       



 え、なんで目覚ましが!?


 頭が休日モードになってるんで、しばらく理解でけへんかった。

 せや、今日はドコモ文化ホールで、裏方の打ち合わせ兼ねてリハーサルやったんや!


 朝のいろいろやって……女の子の朝ていろいろとしか言えません。こないだリアルに書いたら自己嫌悪やったから。



 高安から、鶴橋まで定期で行って、鶴橋から地下鉄千日前線。NN駅で降りてすぐ。

 ちょっと早よ着き過ぎて、ホールの前で待つ。南風先生と美咲先輩がいっしょに来た。

「お早うございます」

「なんや、まだ開いてないのん?」

 ほんなら、玄関のガラスの中から小山内先生が、しきりに指さしてる。

「え……」

「ああ、横の関係者の入り口から行けるみたいですよ」

 美咲先輩が言う。こういうことを読むのは上手い。


――ほんまは、美咲先輩が出る芝居やったんですよ!――


 思てても、顔には出ません出しません、勝つまでは……ただの思いつきの標語です。



 ちょっと広めの楽屋をとってもろてるんで、直ぐに稽古。

 台詞も動きもバッチリ……そやけど、小山内先生は「まだまだや」言わはる。

「エロキューションが今イチ。それに言うた通り動いてるけど、形だけや。舞台の動きは、みんな目的か理由がある。女子高生の主人公が、昔の思い出見つけるために丘に駆け上がってくるんや。十年ぶり、期待と不安。ほんで発見したときの喜び。そして、そのハイテンションのまま台詞!」

「はい」

 ほんまは、よう分かってへんけど、返事は真面目に。稽古場の空気は、まず自分から作らならあかん。

 稽古が落ち込んで損するのんは、結局のとこ役者や。ほんで、今回は役者はあたし一人。


 よーし、いくぞ!


 美咲先輩は気楽にスクリプター。まあ、せえだいダメ書いてください。書いてもろて出来るほど上手い役者やないけど。


 もう、本番二週間前やさかい、十一時までの二時間で、ミッチリ二回の通し稽古。

「もうじき裏の打ち合わせやから、ダメは学校に戻ってから言うわ」

 小山内先生の言葉で舞台へ。南風先生はこの芸文祭の理事という名前の小間使いもやってはる。ガチ袋にインカム姿も凛々しく、応援の放送部員の子らにも指示。

 本番通りの照明(あかり)作って、シュートのテスト。

「はい、サスの三番まで決まり。バミって……アホ、それ四番やろが。仕込み図よう見なさい!」

 南風先生の檄が飛ぶ。放送部の助っ人はピリピリ。美咲先輩はのんびり。

 美咲先輩は、本番は音響のオペ。で、今日は、まだ音が出来てないから、やること無し。


 正直言うて、迷惑するのは舞台に立つあたしやねんけど、学年上やし……ああ、あたしも盲腸になりたい。


「ほんなら、役者入ってもろてけっこうです」

 舞台のチーフの先生が言わはる。

「はい、ほなら、主役が観客席走って舞台上がって、最初の台詞までやりましょ。明日香いくぞ!」

「はい、スタンバってます!」


 一応舞台は山の上いう設定なんで、程よく息切らすのに走り込むことに、先週演出変えになった。


「……5,4,3,2,1,緞決まり!」

 あたしは、それから二拍数えて駆け出す。階段こけんように気ぃつけながら、自分の中に湧いてくるテンション高めながら、走って、走って、舞台に上がって一周り。


「今日こそ、今夜こそあえるような気がする……!」


 ああ、さっきまでと全然違う。こんなにエキサイティングになったんは初めてや! いつもより足が広がってる! 背中が伸びてる! 声が広がっていく!


「よっしゃ、明日香。その声、そのテンションや、忘れんなよ! 舞台の神さまに感謝!」


 小山内先生は、舞台には神さまが居てるて、よう言わはる。ただ、気まぐれなんで誰にでも微笑んではくれへん。

――あと二週間、微笑んどいてください――

 心の中で、そないお願いした。


 さあ、昼ご飯食べたら、学校で五時まで稽古。がんばろか……。


 そない思うて、観客席みると美咲先輩が他人事みたいに大あくび。


「もう、あなたの毛は生えたのだろうか!?」


 美咲先輩めがけてアドリブを、宝塚の男役風にかます。


 さすがにムッとした顔……舞台のチーフの先生が。


――え、なんで?――


「あの先生はアデランスや、アホ!」


 南風先生に怒られてしもた。

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