高安女子高生物語

武者走走九郎or大橋むつお

第1話 それは三日前に始まった

高安女子高生物語・1

〔それは三日前に始まった〕   初出:2013-12-30





 それは三日前の12月27日に始まった。


――アスカ、ちょっと学校出ておいで――

――え、なんでですか?――

――期末の国語何点やったかしら?――


 これだけのメールの遣り取りで、あたしは年内最後の営業日である学校に行かざるを得んようになった。


 南風(みなかぜ)先生は、あたしの国語の先生でもあり、演劇部の顧問でもある。


 数学と英語が欠点で、国語がかつかつの四十点。それでなんとか特別補習と懇談を免れた。四十点というのは実力……とは思てたけど、素点では三十六点。四点はゲタで、そのさじ加減は先生次第。きたるべき学年末を考えると行かざるを得んのよねえ。


 南風先生の名前は爽子。名前から受ける印象は、とても若々しく爽やかやけど、歳は四十八(内緒やけど) 

 見かけはボブがよく似合うハツラツオネエサン。アンテナの感度もよく、いろんなことに気のつく人やけど、悪く言えば計算高く、取りようによっては今日みたいにイケズな人の使い方もする。


「美咲が健康上の理由で芸文祭に出られんようになった。アスカが代わりに出るんや」

「あ、あたしが!?」

 見当はついていたけど、一応は驚いとく。

「三年出しても、来年に繋がらへん」

「そやけど、あたし、まだ一年生ですよって……」

「なに言うとんねん。三年以外言うたら、美咲とアスカしかおらんやろ。で、美咲があかんようになったら、アスカがやるしかしょうがない。ちゃうか?」

「……そら、そうですけど」

「ハンパな裏方専門という名の幽霊部員から、このOGH演劇部の将来を担える生徒になんなさい。佐藤明日香さん!」

「は、はい……」

「一年でダラダラしてたら、高校生活棒にフルでえ。もう三か月もしたらアスカも二年や。ここらで、一発シャキッとしとかんかい!」

 と、愛情をこめて頭を撫でられた(ほとんどシバカレた)


 あたしの学校は、大阪府立Osaka Global highschool(和名=大阪グローバル高校。意訳すると大阪国際総合高校……なんともいかめしく中味のない名称であることか!)

 二年前に三つの総合科の高校が統合されて一つになった。あたしは、その二期生で、三年生は、もとの学校の名前と制服を引き継いでる。


 統合と共にやってきた校長は、いわゆる民間人校長でOGHを含め四つの校長を兼ねて張り切っている。これは四倍の給料が出るから! と思うたら、四校分の給料が出るわけではないらしい。

 あたしは、新設校は生徒への手当が厚いという中学の先生の薦めでこの学校にきたけど、どうも総合病院みたいに、ただ白っぽくてデッカイだけの校舎にも、三校寄せ集めの落ち着きのない雰囲気にもなじめない。


 演劇部は、勧誘のAKBの歌とダンスがいけてたことと、南風先生の熱心な(大阪弁では、ひつこい)勧誘で入ってしもた。本当は軽音がよかった……とは、口が裂けても言えません。


『ドリームズ カム トゥルー』という一人芝居の台本をもらって帰った。


「早めに目ぇ通して、新年五日の稽古には台詞入れといでや!」




 ドン!



 背中をドヤされて、桃谷から環状線に乗り、鶴橋で近鉄に乗り換え。準急に乗って布施までは読んでいたけど、意識がもどったのが山本。シャキッとしたのが高安。


 あたしは河内のど真ん中の高安女子高生。


 冠に原宿とか新宿とか付くとオシャレやねんけど……しかし生まれ育った河内高安。こう書くしかない。

 家に帰って、台本を読もうとするんやけど、ついテレビの特番を観てしまう。

 外国人の喉自慢にしびれ、衝撃映像百連発、ドッキリなんか観てると夜は完全に潰れ、昼間は、家の手伝いやら友だちとのメールの遣り取りなんかでつぶれてしまう。

 今日こそは……そう思ていると連ドラの総集編を観てしもた。


――台本読んでるかあ?――


 南風先生のメールで、ようやく台本を読み始める。かくして、この年末のクソ忙しいときに、我が『高安女子高生物語』は始まってしまったのであります!



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