懲役:異世界転生

武藤毅彦

01-01.Hello, another world

目を開けて真っ先に飛び込んで来たのは真っ青な空だった。


とりあえずホッとする。というのも、赤い空だったり土色のものだったりしたこともあったからだ。まず空の色が違うとろくなことがない。そういうジンクスがすっかり自分の中に出来上がっていた。


起き上がろうとするが足がプルプルと痙攣けいれんしてまともに立つこともできない。おまけにこの眩暈めまいだ。頭もズキズキと酷く痛む。毎度の症状とはいえ、いい加減にしてほしいものだ。それか何らかの対策をしなければならない段階に入っているのかもしれない。転生直後にいきなり殺されないとも限らないだろう、今後の転生で。


深い呼吸を意識しながら状況を整理する。まず、自分の転生地点は草原だ。あたり一面に豊かな緑、遠くには針葉樹林が広がっている。そしてここから20kmほどの地点に街が見えた。高い塔と城壁が見えるので、おそらくは城塞都市だろう。


はぁと一回ため息をく。いやいやながらも歩き始めることにした。つくづくこういった時、転移とか高速で移動できるのが羨ましい。一応退屈しのぎにテレポーテーションだとかフライとか在り来たりなものを唱えてみたが、てんで何も起こらない。


都市に着いた頃にはすっかり空は赤く染まりつつあった。

この都市にはロマネスク様式の立派な城塞が築かれていて、城門には兵が警備を行っている。さて今回はどうしようかと思案していたが、驚くことに門番は通行証の提示を催促することもなければ税を要求することもなく、旅人として俺を素通りさせた、ニコニコ笑顔付きで。...この世界はどんだけ旅人を信用するんだ?

使い古された青いブラウスにボロボロの外套、ヨレヨレのつば広帽子という出で立ちの、幾分怪しげな人間を全く警戒しない門番に存在価値はあるのだろうか。


街に入り辺りを見渡しては見るものの、テンプレ通りの見慣れた世界。中世ヨーロッパの文化には疎いので、どの国のいつの時代のどういった様式・文化形式をモデルにしているかは見当がつかない。こんだけ異文化に触れていれば興味もわくものだが、インターネットもなければ本も師もいない異世界では学ぶ機会が得られないのが残念だといつも思う。


都市の人種は白人の...おそらくはラテン系の市民に、エルフやケモミミ?...獣人といった亜人も見受けられた。ご多分に漏れず亜人はボロボロの身なりをしていたから、おそらくは奴隷なんだろう。白人の奴隷はわずかにいたが、アジア人や黒人の奴隷がいないことにゲーム的な世界観の一端を垣間見る。

当然、目に映る言語も読むことはできなかった。が、僅かだが日本語が通じる。まぁ十中八九この世界の主人公補正の恩恵からとしか思えない。この時ばかりはこの世界の主人公に幾ばくか感謝をしないでもなかった。


日が暮れかけているので宿を取ろうと思ったが、どうやらこの世界の旅人、それも異邦人はえらく歓待される。とりわけみなが俺の黄色い肌を指さして何か言っている。

ああ、はいはい「日本人」ね。それならば、とかつての経験を生かして宿屋らしきものから足を遠ざけ、修道院へと向かう。俺はクリスチャンではないが、この世界の英雄様のおかげで旅人の、それも黄色人種の俺は素晴らしいもてなしを受けることだろう。

そもそも、俺はこの世界の通貨をどれも持っていない。まず間違いのない貨幣的価値を持つ、別の世界の金貨なら6枚ほど持っているがそれだけだ。それにその6枚は転生する際の条件を突破したものであるから、なるべく使いたくはない。その点修道院は通常でも旅人に金銭を要求しない場合があるから尚更なおさら都合がいい。


果たして修道院長は俺を一等の客室に肉付きの食事を用意してくれた。清潔で落ち着いた室内で俺は眠りに就いた。




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