第6話 授業中
昨日はよく寝れなかった。
酷く頭が冴え、頭が変に働いているせいか寝れずにいることにむずむずした。絵を描こうとしたが、モチーフが見つかず、仕方なくデッサンをしていたが、思ったように手が上手く動いてくれず挙句の果てに辞めてしまった。
勢いよくベッドに寝ころがるも、上手く寝入ることが出来ず苛立ちを覚えた。寝返りを打つたびに頭の中に何かがちらついた。
その正体は隣の席の彼女だった。しかし、まだ名も知らない。そういや、名前を聞こうともしなかった。帰り道の一コマは彼女が勝手にしゃべっていて、それに自分が相槌をしている感覚だった。
ふと、彼女の目の中の映像が浮かんだ。勢い良く飛び起き椅子に座るなり机に向かった。
忘れまいと必死にスケッチブックに描き起こした。自然と手が動き、絵を描いているのではなく、絵を描いているのを見ている感覚だった。
絵具を使い、ひたすらに記憶を頼りに描いていた。頭の中から手が出ている感覚だった。今にも、脳みそが飛び出しそうになっていた。
描き終えたのか、自然に手が止まっていた。暗闇の中にいたのかどこからか後の記憶はなく無我夢中に描きこんだのが机の上が多くを語っていた。
顔を窓の方に向けたら気づいたら朝になっており、そのまま机に突っ伏して寝てしまっていたのだった。ずっと椅子に座っていたのか、足、いや太ももが固く感覚が無くなっており、動かすのに少し理解が必要だった。
続けて、机の上に視線を戻す。机を見てみれば、そこには完成した絵があった。
それは、何か言い表せない、狂おしくも美しい色彩だった。
そんな、映像が授業中に脳裏に甦った。授業も聞かずにぼうとしていたためか、彼女が横からつついてきた。
「ねぇ、絵。好き?」
ある雑誌を差し出しながら尋ねてきた。
自分はそれは手にした。その表紙には、テクノロジーなどを使いアートを創るアーティストの作品があり「テクノロジーがアートを創る」とでかでかと踊っていた。因みに、自分は二次元の絵などにしか興味がなく、全くの無知だった。
「何これ、こんな雑誌あるんだ。」
声を潜め彼女を見た。彼女は少し目を輝かせ、椅子をこちらにずらしてきた。
「好きなの?絵。」
「まぁ、好きだよ。」それから、恥ずかしいが「一応、描いてもいる。」と付け足した。
「そうなの?じゃ、また、見せてよ。」その声は弾んでいて、少し声がでかくなっていた。仲間を見つけたような歓喜のも溢れていた。
「まぁ、そのうちね。」
はっ、と彼女は顔を上げ、すぐさま雑誌に視線を戻した。
「ごめん。つい、話がずれた。」
彼女はページをめくりながら本題に入った。
「ここに載ってるさ、芸術家の個展がさ、今度近くの大きな会場でやるんだけど、一緒に見に行かない?」
なんだ誘いか、と裕翔は気楽にだが思った。何かの前段階か、彼は彼女を窺うような目を向けた、その目にはそんな気がしなくすぐに雑談に目をやった。
「和口 翔太」そう、名が記されており、明らかに自分の瞳孔が開いているのを感じとった。
和口翔太は自分が目標としている人物であり、一度展覧会に行ってみたいと思っていたのだ。
彼女も、好きなのだろうか。
「好きなの…和口翔太」
彼女はその言葉を鼓膜に入れるや、自分の言葉に飛びついてきた。
「好きなの!?和口さんのこと?!」
椅子がガタッと鳴き、何人かのクラスメートが自分の方達を向いた。彼女は視線が刺さったのか、少し身体を屈めた。
自分は上目遣いで見ていた。
「まぁ…」自分はより一層声を潜めた。
「じゃ、決まりだね。」
彼女は誇らしげに小さくガッツポーズをした。
その後、彼女は雑誌を自分の手から取った。そのまま、リュックの中に入れ、シャーペンを手に取り黒板の字を書き写し始めていた。
「あのさ…」そう言いかけたとき、授業の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
「ん?なんか言った?」
チャイムのせいか聞こえて無さそうに、とぼけた顔でノートから顔を上げた。
「いや、まぁ、お昼時でも。」自分の言葉を打ち切り、自分は時計に目をやった。
長針は三時限目と四時限目の間の休み時間の真っただ中を指していた。
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