柊 京子スピンオフ〜学生時代からヤンチャしてました〜

あきらさん

第1話


 それは突然にやってきた。


「麻宮君!パン買って来てよ!」


 お昼休みが始まり、教室の片隅で一人でこっそりとお弁当を食べるのが日課になっているの僕にとって、学校で人に話しかけられる事は人生で最大の大事件だった。

 決していじめられている訳ではないが、友達のいない僕は、知らず知らずの内に周りからハブられる体質になっていた。

 もうすぐ夏休みが始まろうとしていた高校二年生のこの時期に、僕は一人の美少女に声をかけられた。


「パン……ですか!?」

「うん。食パンを切らずに一斤」

「切らずに一斤!?」

「あと、フランスパンも一本」

「それも切らずにですか?」

「いや、51等分」

「51等分!?」


 噂通りだ……。

 容姿端麗ようしたんれい、成績優秀、スポーツ万能と三拍子揃ったその美少女は、学校でも一目を置かれる存在だったが、何よりもだという噂で誰も寄り付かなかった。

 その子の名前はひいらぎ 京子。

 正直、あまり関わりたくない存在だった為に詳しい事は良く知らないが、マジ卍な奴だという事だけは知っていた。


「どこで買ってくれば良いんですか?」

「松野屋で」

「牛丼屋ですけど」

「何か文句あんの?」

「文句はないですけど、パンは売ってないと思います」

「知ってるわよ。私を誰だと思ってるの!?」

「……」

「カンザスシティ生まれのアラスカ育ち、浪花のブラックダイヤモンドよ」


 今日は早退した方が良いのだろうか……

 僕はこの時、出会ってはいけない人に出会ってしまった気がした。


「アンタ、名前何て言うの?」

風祭かざまつり 出汁男だしお


 そう。僕の名前は麻宮ではない。


出汁男だしお君。牛丼買って来てよ」


 自分でも気にしているのに、早速下の名前で呼びやがった……

 しかも牛丼に落ち着きやがったし……


「もちろん味噌汁も付けてよ」


 出汁だしだけにか?


「お代は出汁男だしお君が払うから心配しないで」


 日本語がおかしいぞ!

 心配なのはお金じゃなくて、お前の頭なんじゃないか!?


出汁男だしお君だけは特別に、私の事を京ちゃんて呼んで良いわよ」

「サラダも付けましょうか?」


 僕はすぐに京ちゃんの下僕しもべとなった。

 確かに噂通り性格に難はあるが、それを補って余り有るほどの京ちゃんのビジュアルは、今の僕にとって天秤にかけるほどの事ではないと、自分の身をわきまえた。


 いつまでも尖っていてもしょうがない。


 僕はこの時、京ちゃんと仲良くなる為に、今までの自分を捨てようという覚悟をした。

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