第四話:「盛岡へ」

朝になった。

目が覚めたら元の時代に戻っていることを期待したが、そのようなことは起きなかった……。


 安西と村田が仕事に出かけた後、宿のオリエンテーションを受けた。俺とは別に二名が受講していた。どうやら俺と同時期に宿へ入った人達のようだ。

その後オリエンテーションでの指示通り、朝昼と無心で宿の手伝いを行った。その合間に固定電話を借り、自宅へ電話をかけてみたが最初と同様に『呼び出し中』のまま誰かが電話に出ることはなかった。


 夜になり、安西と村田が宿に帰宅してきた後、安西からある提案があった。

「実は俺の親父が大学の教授でな。明日親父の学会発表なんだ。結構面白い内容だから、お前も聞きにこないか? 親父は『人類の起源』を研究していて、結構面白いと思うけど」

ほう……。SFが好きな俺にとって、このテーマは非常に興味深い。しかも未来の研究成果を聞けるとは……。

「俺が行っていいのか?関係者しか入れないのではなくて?」

昨日今日のやり取りで2人への緊張も解けたからか、俺は2人に対してタメ口で話すようになっていた。

「いや、講堂内は出入り自由だぞ。名簿に記名さえすれば誰でも聴ける」

なるほど。問題はなさそうだな……。未来の研究成果にうきうきした俺は、今の無気力感に抗う為にも二つ返事でOKした。

「オッケー。じゃあ明日の10時に宿正門集合な」

「了解。ちなみにどこでその学会は開かれるんだ?」

「ああ、言ってなかったな。『盛岡』だ。イタを使えばすぐ着くぞ」

イタ……?謎ワードが飛び出した。





翌日。俺、安西、村田の3人は宿の正門に集合した。

「この宿屋では盛岡ぐらいの近距離ならばイタを貸してくれる。流石に県をまたぐ旅行の場合は貸してくれないけどな」

安西はそう説明した。

「ちなみにイタってなんだ?」

俺は安西に確認した。

「ああ、そっか。分からないか。『自走する板』って呼ばれるもので、上に乗って進みたい方向をイメージすると勝手に板が走り出すぞ。燃料は必要ない」

なんだそのファンタジーな乗り物は……!説明を聞いた俺は少し興奮してしまった。



安西と村田に教えてもらいながら、イタの操作を学んだ。

「こいつは、心が乱れている時や意識が別な方に飛んで行ってしまったりすると、それを反映してあらぬ動きをするからそうならないように慣れてくれよ。例えば可愛い女の子を見つけて、『その子に近づきたい』とか思うとイタが女の子に向かって進み出すから気をつけてくれな」

村田がにやにやしながらそう教えてくれた。隣で挙動不審になっている安西を見る限り、既にやってしまった人がいるのだろう。

その後30分ほど練習し、かなり自由に運転ができるようになった。





雫石町清水地区から盛岡市市街地まで道なりで約10kmほどである。俺たち3人はイタを用いて、戦争で荒廃したあの国道を走行していた。

道端には、荒廃した建物以外に乗り捨てられて黒焦げになった戦車らしき物体などが存在していた。

「内戦ってもう終結しているんだよな?」

俺は二人に確認をしてみた。

「一応は終結しているぞ。ただ、敵軍のロボットがまだ残っているみたいで、街道ではまれに襲われる人もいる。油断はしないほうがいいぞ」

そう安西が答えた。

「ただ保安警察が巡回しているから、敵のロボットもそう簡単には出てこれないみたいだな。特に町中は警備が厳重だから、リスクは減っていると思うよ」

村田がそう付け加えた。どうやら現代日本と比べて相当治安は悪くなっているようだ。


助言をもらい、ビクビクしながら運転を行っていたが、結局ロボットに襲われることはなく盛岡市街地に入った。




盛岡市街地は内戦の影響を受けてか、現代の日本と比べて町の景観が暗い。そして、いたるところに破壊された建物が見受けられた。

ただ人々の活気は現代の地方より良く見える。内戦後で、お互いに助け合わなければ生活できないのであろう。

そこら中でロボットが人々を介抱している姿を見て取れた。町の景観を見ると2018年代の日本と大差がないように見えるが、この自走する板やロボットの発展を見る限り、より細かいところで技術の進歩があるのだろう。




俺たちは腹ごしらえのために、冷麺屋へ入った。お店の中の従業員は全員ロボットだった。

近未来な雰囲気に心が躍る。

……そして注文通り出された冷麺。醤油ベースのスープにキムチ由来の辛みが効いていて、それが麺に絡んで非常にうまい。

「小林の記憶があるころと味はそう変わらないか?」

安西が聞いてきた。

「そうだな、変わっていないと思う」

昔冷麺を食べた情景が脳裏によぎり、少し寂しくなった。





その後俺たちは大通りをイタで進み、大きなホールの前へ到着した。

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