第二話:「草原」

 急な光に思わず目を細める。俺の脳は色覚の急激な変化に処理が追いつかない。その結果口から出た声は恥ずかしながらこれであった。

「ひいっ!!!」

しょうがないよ、恐怖感じるよ……。

数秒たち、頭の処理が追いついてくる。そして理解する。


ここは一面草原だ。樹木も民家も周囲にはまったく見当たらない。

牧場か?と思うが家畜も見当たらない。日光がさんさんと降り注ぎ、ほんわかした春の陽気となっている。

そして、俺の服装は先ほど有海と会っていた服装から変わっていなかった。ただし、渡そうとしていた本は見当たらない。



そして目の前にいたはずの有海もいなくなっていた。



辺りの状況を理解した後、俺はこんな心境となった。

「ここはどこだ? そしてなぜ俺はここにいる?」

解決することのない疑問が頭の中で堂々巡りとなり、俺は混乱した。


30分ほどそこに留まり、いろいろと考えた。

俺はまず所持していたスマートフォンを確認した。しかしここは圏外だった。ただわかることがあった。

マップで確認すると、GPSは「岩手県岩手郡雫石町」を指し示した。なぜ仙台から岩手に転移している……? 

次にこれは夢だとも疑った。しかし、自分を殴れば痛い。草のにおいや日光の陽気もリアルだ。いやまあ「明晰夢」っていう可能性もあるが……。いやまあこんなリアルなことは明晰夢ではありえないと思う。


そして考えた結果、わかったことがある。

「ここにとどまっていても何もわからない」


なので、俺はマップを頼りにこの付近を恐る恐る探索することにした。とりあえず慎重に探索し、もし付近が問題なかった場合はマップが示す国道にまず出よう。その後この国道沿いにある雫石町の集落を目指して、状況把握に努めよう。

「有海大丈夫かな……。有海も同じ状況になっているのだろうか……」

非常に気がかりだった。



草をかき分け、さらに1時間ほど歩く。マップ上で「国道」が存在する位置に到達した。

ところがそこには荒廃した道路が存在していた。地割れがいたるところで発生しており路面はボロボロ、しかも所々に落石が存在した。意味不明な状況を前に、俺の頭に恐怖がよぎる。


「どうなっているんだ……?」


その廃道に沿って、さらに2時間ほど歩く。スマホのマップ機能は通信機能が使えないとマップ情報を保持できないため、今マップを開いても真っ白な画面と自分を示す青丸しか表示されない……。

さすがに眠くなってきた。だって、こんな状況になっていなかったら今は深夜2時ぐらいだろうし。

「さっきのマップどおりに進めば、そろそろ集落に到着するはずなんだが……」

徐々に不安になってきた俺だったが、さらに10分ほど歩き進めると1つの集落にたどり着いた。




すぐさま集落入口に掲示されている地図を確認。地図にはしっかりとこう書かれていた。

「雫石町清水地区」

日本語で記載されていた。正直非常に安心した……。

スマートフォンを確認した。しかしまだ圏外だった。

掲示されている地図には交番の地図記号が書かれていたので、まずはそこに向かうことにした。




10分ほど歩き、交番に到着する。警官がいたので助力をお願いすることにした。

「すみません。仙台にいたはずなのですが気づいたら雫石町にいました。できれば仙台に帰りたいのですが、交通費がなく……」

「……え?」

いやまあそういう反応になりますよね。言い訳しようと思ったんですけど思いつかなくてどうしようもないんです。すみません。

「では身分証を提示してください」

「すみません。自宅に置きっぱなしで今持参していないんです」

「はあ……」

本当にすみません……。

「固定電話をお貸ししますのでご自宅と連絡を取ってみますか?」

実家と連絡が取れたら迎えにきてもらおうと考え、俺はその問いに承諾した。

しかし、何度電話をかけてみても電話は『呼び出し中』のままだった。

「すみません。今はつながらないみたいです」そう警官に伝えた。

「……わかりました。そういう方達のために、雫石町では宿を無料開放しています。この券を持ち、指定の宿へ行ってください。あと名前と住民票の住所を伺います。自分の名前はわかりますか?」

「小林昭人です。住所は宮城県仙台市●●です」

「小林様かしこまりました。ではこちらの紹介状を持ち、この民宿へ出向いていただければと思います」

そもそも無料開放している宿とか、非常に怪しいですけど……。

「あの、身分証なしでお金を借りれる銀行とかないですよね……?」

「この付近にはないかと。とりあえずその宿に泊まっていただいて、ご両親に再度連絡を取っていただくのが良いかと思います」

まあ、取られるものもないしいいか……。警官からの紹介だし大丈夫だろう。とりあえず、俺は眠いんだ。


指定の宿へ着いた。粗末なつくりの2階建ての民家だった。看板を見る限り、民宿のようだ。受付の人へ券を見せる。

「お客様、こちらでございます。ご迷惑をおかけしますが、部屋は3人共用となっております」

共用……? 聞いた内容に一抹の不安を覚える。

そして受付の男の人に案内された部屋には、同年代に見える男が2人いた。

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