第五章 叛く者 叛かれる者【第三部最終章】
第一話 旅路の果て(1)
銀河系中の耳目を集めたスタージア星系の戦いが、大方の予想を覆して
「《原始の民》の降下から銀河系人類を見守り続けた民の末裔として、これ以上の流血は望むところではありません。人類は知恵と勇気を尽くして、対話による歩み寄りを果たせるであろうことを信じています。皆さんが過去の宿怨を乗り越えるためであれば、我々も助力を惜しまぬことを誓いましょう」
全てを見通すかの如き慈愛に満ちた表情を張りつけたソルナレスの、全銀河系に向けて発せられた迂遠な言い回しを要約すれば、銀河連邦と
この期に及んで、銀河連邦には勧告に応じる以外の道を選ぶことは出来なかった。スタージア星系の戦いで失った戦力は一朝一夕で回復出来るものではなく、連邦は継戦能力を喪失している。それどころかエルトランザやサカといった複星系国家が、戦力を落とした連邦にいつ干渉してくるかわからないのだ。博物院長の声明によって露骨な動きは抑え込まれているが、陰でどんな蠢動を見せるかわからない。もはや
一方で勝利した
「我々も、これ以上の争いを求めてはおりません」
ジャランデール行政府庁の会議室で、ジェネバは列席者たちに向かって静かに告げた。
「
大きく息を吸い込み、吐き出しながらジェネバが口にしたのは、ある意味最も重要なことであった。
「我々の連邦市民としての地位の回復です。
銀河連邦から脱退し、
「ンゼマ議員の仰る通りです」
ジェネバの言葉を引き取るように口を開いたのは、厚ぼったい瞼の下から細い目を覗かせるトゥーラン代表、ジンバシーであった。
「我々は何よりも、第一世代との対等な関係を求めている。
スタージア星系の戦いの後、連邦軍や保安庁に制圧されていたトゥーランでは、またぞろ現地の人々が勢力を盛り返しつつある。だがつい先日、現地勢力との連絡が回復した際にジンバシーは、必要以上の戦闘を自重するように呼び掛けていた。今後、銀河連邦との交渉をスムーズに進めるため、相手を極力刺激したくないというジェネバの意向を汲んだのである。
ジンバシーの発言を受けて小さく頷いたジェネバは、その大きな黒い瞳で改めて目の前の顔ぶれを見渡した。
「先の戦闘の結果、そしてスタージア博物院長の呼び掛けを受けて、連邦常任委員会も我々との交渉のテーブルに着かざるを得ないでしょう。
それ以上に過激な要求を掲げても許されうるのは、同胞の血を最も多く流したジンバシーだけであった。その彼が口にしたのは、この場の全員が納得しうる妥当な条件ばかりである。ジェネバが取りまとめた結論に、異を挟む者はいなかった。
事前にジンバシーに根回していた結果が、功を奏した。この会議の前夜、密談に応じたトゥーラン代表は、おそらく彼女が持ちかける内容を既に予想していただろう。
「私としては、トゥーランの解放に勝る望みはありません。それ以上はンゼマ議員、あなたの言うことに同意しましょう」
ジンバシーは冷静だった。実際のところ、トゥーランの解放を加えた四つの条件以上の要求――例えば
「この争いが収まったとしても、私たちには今後の生活があります。安定した環境を確保するためには、連邦からの離脱は必ずしもベストではありません」
「そのお言葉を聞いて安心しました。ジンバシー長官にそう言って頂ければ、明日の会議が紛糾することはないでしょう」
ジンバシーがその点を心得ていることを確かめて、安心したというジェネバの言葉は嘘偽りのない本心である。
それ以上の権益を得ようとすれば、さらに争いが長引く可能性が高い。内乱の長期化によってどちらが先に力尽きるかといえば、
「長官の決断が
トゥーランが無事に解放されたとしても、その後の国論を一枚岩にまとめるのは、いかにジンバシーとはいえ容易ではないだろう。連邦軍や保安庁に対する憎しみが、最も募っているはずの星だ。憎悪に凝り固まる人々の心を宥め、少しでも自尊心を満たすことが出来るような方策を用意しておく必要がある。それも、ほかの
ジェネバにはまだまだ考えるべきことが山積みであった。
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