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「ほら、ほらここ、ここにあるんっ!」
「あ、本当だ」
浅くて細い用水路が集まった、少し深い場所。その奥に石に紛れてキラリ、と光るものがあった。
「見つけたのはいいけど、手が届かんくて、でも目を放したら流れて行ってしまいそうで」
だからここから動けなくて助けを呼んだのか。
突然走って来た少年は俺の腕を取ると有無を言わさずこの場所に連れてきて事情を話した。友達の、とても大切なモノを少年のせいで失くしてしまったらしく、探し回ってやっと見つけたんだとか。けど深くて一人で取るにはちょっと危険で助けを呼んだらしい。
確かに絶妙に細くて深いから一人だと怖いかも。
「絶対見つけるってカコちゃんに約束したから」
そう言って泥のついた甲で顔を拭う。その純粋な瞳はとても真剣なものだった。
「こんな所になんで落としたの?」
「それは」
少年は少し言い淀んでから「カコちゃんが」と続けた。
「前の学校で男の子から貰った大切なモノやって言ってて、見せてもらった時に落としてしもて。ワザとやないけど、おもちゃの指輪やったし僕が代わりのあげるって言ったらいらんって泣かれて。やから、絶対見つけたるから泣くなって約束して」
「そっか、そんなことが」
告白をした男の子はその時のことを思い出したのか垂れた頭のまま頷いた。
「大丈夫、絶対取れるから」
「ほんまに?」
「兄ちゃんの手は長いんだ。落ちないように足持ってて」
「うんっ!」
んんんん~っ。なんて言ったけどっ手を伸ばしてもっギリッギリ・・・
「うぷっ」
寝そべった体に地面からの熱を感じて、捲ったTシャツの袖が濡れて、顎を水に浸けて限界まで腕を、指の先を伸ばす。水の流れに紛れて指先に固い感触。その石たちを慎重にどけて水面に揺らぐ銀色を指に掛ける。人差し指と中指で挟んで慎重に持ち上げる。
あ、あぁもう少し・・・ツラないで俺の指っっ!
「わぁーーーっ!!! ほんまに取れた! ありがとう兄ちゃん!!」
「あぁよかったよかった」
伸びきった腕を無意識に擦って答える。少年は満面の笑みで何度もお礼を言ってくれた。
「偉いな約束を守って」
そういうと少年は一瞬不思議そうな顔をして「うん」と頷いた。
この事が彼にとって特別な夏休みの思い出になるのかな、なんて思ったりして。俺は明日の筋肉痛のことが心配だよ。
少年と別れて再び熱い道を歩き緩んだ頬のままストローを口にした。袋に入っていた炭酸は完全に冷たさを失っている。カップの中身も同じくか。
「・・・ぬるい、ふふ」
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