清水のうねり

カゲトモ

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「あつい」

 暑いからと部屋でだらだらしていても掃除の邪魔だと言われ結局外へ放り出されるくらいなら、やっぱり帰って来なくても良かったんじゃないかと思ったりして。世話をする墓があるわけでもないし、本家への挨拶は両親がすでに済ませて来たようだし。俺が来たところで何になるって言うんだろうか。両親が喜ぶ? 三十路の独身が帰って来て? 彼女を連れて帰るならまだしも・・・

「溶ける」

 持っていた右手につぅっと滴が流れる。

 悩んでいたアイスキャンディーにしなくて正解だった。今頃両手がベトベトになっていただろうから。

 カップ入りのコーヒーのフラッペはチョコチップが入っていて冷たくて美味しかったけど、一瞬にして氷が解けてほとんどミルクコーヒーになってしまった。何て暑いんだ、暦の上ではもう秋なのに。

「ふぅ」

 じりじりと肌を焼くと言うのはこういう事だろう。一応かぶって来たキャップの中が蒸れて来たことが分かる。早く帰って冷房の中で涼みたい。ここは涼みに行けるような施設がなくて、暇を潰せるのは散歩かコンビニに買い物に行く事くらいだ。

「ん?」

 早く帰ろうと速度を速めると、あぜ道に麦藁帽を被った子供が一人いることに気付いた。このくそ暑いのに何をしているんだ? この時期におたまじゃくしもいないし、何をして遊んでいるんだ・・・もしかして?

「おい、そこで遊んでいたら危ないぞ」

 こちらに向けていた背に声を掛けてみる。もしイタズラに田んぼの水位を弄っているのならそれは許されない事だから。

「っ!」

 ビクついた背中は一目散に走り去って行、くのかと思いきや振り返った勢いのままこちらに向かって走って来た。なになにどうしたのっ!

「たすけてください~!!」

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