◤噂と御対面
不思議なものだ。
授業中はひたすら早く帰りたいと願っていたのにいざ下校時間となるとだるくてまだ帰りたくないと思ってしまう。
なにかするでもなく机に突っ伏しているとクラスメイトで幼馴染(楠 朱音)がやって来た。そして例の話を振ってくる。
「尚ちゃん大変。早く帰らないと私たちトマトジュースにされちゃうよ。知ってるでしょ?あの噂!夕暮れに殺し回る殺人鬼!!朱く染まったこの街で赤い鋏を持って現れる…」
この街の赤々とした殺人鬼の噂話。実際に凶器が鋏の事件はいくつか起きている。誰かがそれをかっこよく噂に広げたような作り話。学校が終わる度に語り始めるからきっと朱音のお気に入りなのだろう。
「あーうん。知ってる。ミンチになる前に帰ろうか。」
スイッチが入った朱音はぺらぺらと噂話を話し出すが俺が「帰ろう。」と言うと満足そうに頷いて話を止める。俺と一緒に帰る為の口実なんだろうな、なんて事をつい思ってしまう。けれど朱音には想いを寄せている人がいて2年近く諦めずに好きでいる。だから期待はしちゃいけない。小学生の頃から続く一緒の登下校がいつの間にか当たり前のようになっていた。
「これ食べないと帰れない!見てよ『今だけソフトクリームトッピング!!』だって!あっついしさ!冷たいの食べて涼もうよー!」
駅前にリニューアルしたアイスクリーム屋を指して目を輝かせる朱音。女の人は冷え性とよく言うが夏に限らず冬でも美味しそうにアイスを食べる朱音にはきっと無縁なのだろう。
「…さっき『ここの夏季限定パンケーキ食べたら帰る』って言わなかった?」
スイーツ大好き幼馴染は『限定』『新作』
の文字に弱く見かける度にあれやそれやと歩き回る。ほんの数分前に潰れないのが不思議なくらい重ねに重ねた分厚いパンケーキにアイスが4つもトッピングされた一人で食べるにはかなりの量のパンケーキを平らげてきたばかりだ。正直今甘いものはキツい…
「んー、そうだっけ?…苺と抹茶とチョコミントのトッピング付きが1つと抹茶のトッピング付き1つお願いします!!…抹茶でいいよね?」
「食べるのは強制なの?抹茶でいいよ…ぶはっ」
そんなに食べるのかとブラックホール並の胃袋につい笑ってしまった。
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