虚空のカード

千ヶ谷結城

上巻

prologue【運命の探し人】

 空を飛びたい。

 その一心でここまで突き進んで来たんだ。そう簡単に夢を手放すなんて出来やしない。その筈が、たった一つの事故で手放す事になって、僕は心を燃やし尽くしたんだと気付いた。

 全てに嫌悪感を持って挑んだ訳では無い。正義を恨んでいた訳でも無い。なのに、何で僕が将来を諦めなければならないのだ。夢を愛し、世界を愛し、空を愛し、生きたのに。

 罪があり、悪がある。それなら話は別になる。しかし、そうでは無いのに僕に失望感を与えるのは止めて欲しい。

 この手に夢が無いのは生きている価値が無いも同然。そう自分に言い聞かせ、世界を愛した筈。だったが、こんな事実が待っているとは、予想すらしていなかった。

 未来を見る事、過去を見る事。どちらも恐怖が伴うが、見ようと思えばどちらでも見る事が出来る。しかし、それを決めるのは決して他人であってはならない。自分で決める道であるからこそ、未知が待っている。

 僕が未知を見据えたのには、誰にも理解出来ない多大な夢があったから。その夢が尽きる事は無いと、僕は過信していたから。



『空には幾つもの夢が詰まっている。そこから人類全てに夢を与える。叶えられるのは、ごく僅かな人』

 その伝説を祖父から聞いた僕は、ごく僅かな一人に成りたいと思った。その一人になったら、僕もごく僅かな一人を選ぶ者に成るのだと、胸に希望を燃やした。そしてその時、自分の未来が未知として現れたと思った。

 祖父が亡くなり、父から受け継いだ物の中に、一枚の古いカードが入っていた。取り出すと砂埃が落ち、模様が露わになった。その模様とは、代々樫宮かしみや家に伝わる家紋だった。しかし、現在の家紋とは大きく異なる為、僕は不自然だと感じた。

 そしてそのまま、誰にも聞く事も無く、僕は成人になった。二十歳となった僕を祝う人は居らず、ただ一人でたった一枚のカードと向き合う事になった。


 我は受け継がれし未知を探す者なり。

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