Day of Valentine and White

千ヶ谷結城

Valentine's day~私から彼へ~

 心を込めてラッピングした小袋を大きい袋に入れていく。

 色とりどりのリボンが私の目を輝かせていた。

 今日は2月14日バレンタインデーだ。

 料理が苦手な私がここまでキレイに完成させられたのだから、1人くらい褒めてくれる人がいてもいいと思う。

 いたら、いいのにな……。

 自転車のカゴにチョコレートが入った袋を置いてこぎ出すと、ちょうど隣家の幼馴染も家を出たところだった。


「おはようっ!」


 寒さに負けずに私があいさつをすると、彼はマフラーに顔をうずめて「おう」と小さく言った。

 少し先を行く彼に追いつくべく、私は立ちこぎをして彼の隣で自転車を進めた。


「なんだよ。いつもはついて来るなとか言うのに」


 彼が無愛想に言った。

 特に並んで自転車をこぐことに理由はなかった。

 だから無理に理由づけをした。


「えっ? あー、そのー。今日はバレンタインだし、あんたがチョコを受け取る姿を見てやろうと思っただけ、それだけ!」


 何か心にもない、まずいことを口走った気がする。

 気のせいにしておこう。


「ふぅん……」


 彼が適当そうな反応をした。

 しかしどこか、推理をしている探偵のような反応としても取れる。

 何を思っているのか全く分からない。

 例え彼の表情から読み取ろうとしても、彼はマフラーに顔をうずめているので、表情が見えない。

 諦めかけたその時。


「男子には渡さないのか? 俺を含めて……」


 彼は唐突に言った。

 後半の言葉は風で聞こえなくなってしまった。

 その声音はどこか不安定で芯がないように思えた。


「うん、渡すつもりはないかなー。友達だけで手いっぱいだったし」


 私が笑って返事をし彼を見ると、彼の目には負の感情が宿っていた。

 えっ、なんで……?

 彼の考えていることが分からないまま2人の自転車は進み、学校に到着してしまった。

 彼の自転車の隣に私も停めて昇降口に向かおうとすると、背後から彼が私を呼び止めた。

 ふり返るとそこには、マフラーを外した彼がいた。


「なに? 寒いし、早く教室いこうよ」


 私は首を傾げながら彼が言う次の言葉を待った。

 彼がぐんと私に近づいた。

 何をされるのか分からなかったが、それでも黙って彼の言葉を待ってみた。


「もらってやる」


 その短い一言が聞こえると同時に、彼の手がこちらへ伸びた。

 彼の手を一瞥いちべつしてから彼の顔を見た。

 彼の顔はマフラーを取ったせいで寒いのか、真っ赤になっていた。

 私が何も言えずにいると、彼は再び口を開いた。


「どうせ分量まちがえて作りすぎたんだろ? この料理ベタが」


 心理を見抜いたような狡猾こうかつな笑みで彼が私を責めた。

 彼の言葉に怒りを覚えた。

 しかし、図星だった。


「料理ベタは言いすぎでしょ! 確かに作りすぎたけど……それでも!」


 私は言い訳を続けようとした。

 しかし、彼が私の言葉を遮った。


「だから俺がもらってやるって言ってるんだよ。余ったらもったいないだろ」


 いたずらっ子のような笑みはなくなり、彼の顔には優しさがあふれる笑みがあった。

 その笑顔に妙に納得できて、私はカゴに置いていた袋から1つ取り出した。

 小袋の中にはブラウニー。

 特にうまく完成したものを彼の手にのせた。

 彼は目の前にいる私のことは気にせず、袋の外側から中のブラウニーを査定するように注意深く見ていた。

 特別うまくいったものをダメだと言われたら、残りのブラウニーはどうなってしまうのだろう。

 不安と心配を表情に出さないようにしながら、彼の感想を待った。


「……へぇ、けっこう美味そうだな」


 不器用に褒めてくれたことが分かり、私は驚きと嬉しさが交差した感情を味わった。


「ほんと? 美味しそう?」


 私が彼の顔を覗き込むように聞くと、彼は顔を赤くして昇降口に向かって早足で歩き始めてしまった。

 その背中を追いかけて走っていると。


「お前にしては上出来なんじゃねーの? あとは余らないように配るんだな」


 彼の顔は見えなかったが、きっとまた悪い笑みを浮かべているに違いないと思った。

 彼の言葉を聞くために止めていた足をまた走らせて、彼に追いついた。

 そして彼の背中を叩いた。


「余らせません!!」


 だって……君が褒めてくれたブラウニーだから……。

 いつか、友チョコでも義理チョコでもない、心を込めたものを贈られたらいいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る