第56話世界最高峰の男たち
耳元で銃弾が凶暴な音を引きながら通り過ぎる。ホテル桃源台の正面玄関には突入してきた自衛隊の特殊作戦群とアトランティカ保安部が激しい銃撃戦を繰り広げていた。レイイチは柱の陰からマシンガンを乱射し、エントランス奥の通路に走った。
『五班退避、予定通り所定の位置に向かう』
『了解』
レイイチの後を、黒スーツの上から完全武装した部下3人が追う。
ホテル正面の決して広いとは言えない車道に、何十台もの軍用車両が並んだのはおよそ30分前。その後車列から武装した自衛隊員が飛び出し、ホテルを完全包囲。予想より多い、まるでちょっとした戦争を始めるほどの規模の敵に、作戦の修正を余儀なくされ、つい先ほど調整が終わった途端、銃撃戦が始まった。
暴力的な音がだんだん遠ざかり、途中別班とすれ違ったりしながら、一行は六階の正面玄関を望む廊下に着いた。
『五班、所定位置に到着』
屋上の方からも散発的な銃声が聞こえる。
「装備を持ち替えろ」
レイイチの指示に全員サブマシンガンから連射式グレネードに持ち替えた。
『三班、一つ目のトラップを起動させる』
「六連発×四人で24発の爆弾の雨。これで敵さん終わりでしょ」
軽口をたたくのは一番若いオゼキだ。発言とは裏腹に手が震えている。
「希望的観測。その発言はそうであってほしいという君の願いね」
冷静にヒグチは言い放つ。オゼキは顔を引き攣らせた。
『指令室から一班。地下電送通路の援護に向かえ』
「たとえ君がドリームウォーカー志望だとしても、こういった戦いに身を投じることがストレスなら異動を申し出た方がいい。一応我々は保安部に属しているし、第二夢層で構築師を倒すことは第三夢層の人間を殺すことだからね。どっちの世界でも一緒だよ。表向きキラキラ輝いて見える仕事ほど、裏側は大変で汚いんだ。夢のテーマパーク然り、三ツ星レストラン然り、ペンション経営然り」
「班長、雑談はその辺で。発見しました」
ずっと窓の外を監視していたカズヒロに3人が振り向く。レイイチはそっと窓の外を伺った。
『九班から指令室。敵陣に動きあり。第二波と思われる』
「あれが我々のターゲット。……シールズだ」
自衛隊の車列の後ろに仕様の違う軍用車が複数あり、その背後の林に黒ずくめの男たちがいる。
『四班から指令室。二名負傷。退却する』
「世界最高峰の男たちがこっちに捕捉されるなんて、連中ナメてるのかしら」
「戦力比はおよそ四対一。出番はないと思ってるのかもね」
「米軍め、まずは同じ民族同士で潰し合わせる気らしい」
カズヒロがしかめ面でそう言い放ち、グレネードランチャーを構えた。
『指令室から五班。攻撃はまだか』
『五班、攻撃を開始する』
「カズヒロ、ヒグチはシールズ。僕とオゼキは車両、いいね? いくよ……撃て」
レイイチの合図で四人が全弾を打ち込んだ。二〇〇m先の車列に次々爆炎が上がる。
敵の攻撃の手が弱まった。こちらからの銃撃音が強くなる。
『狙撃班! 右側の二人を撃ってくれ』
おそらく、仕留めた……。だが油断は禁物だ。レイイチはランチャーをライフルに持ち替え、再び窓から狙いをつけた。
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