第51話態度とは裏腹に
途端、サバンナの風景が、花弁が散るかのように細かく分裂し始めた。景色が千切れ、全てが荒涼とした赤土に戻ったと同時に、前方に3人の人影が見えた。
「いた、あそこ! ミュンヘルの戦士たちよ」
3人の後ろには白く細い歪な棒のようなものが天高く伸びている。散発的に銃声が鳴り響く中、あれがガシャの根かとアオイが思った時、その真下にエリの幻影城が現れた。
「私がここに残って食い止める。残りは全員第三夢層へ」
エリの指示に返事をする間もなく、次々襲ってくるシャドに銃弾を浴びせながら、向こうからやってくるミュンヘルの三人と合流した。
「お久しぶりです、マルベックさん」
「おぉ、リュウか。久しいのぉ……なんて言ってる場合ではないの。こっちじゃ」
リュウが初老の男性とあいさつしているのを背中で聞きながら、アオイもシャドに向けて銃弾を放った。六体目を仕留めたとき「行くぞ」と左目に唐草の紋様が入ったミュンヘルの男に呼ばれた。
「光球霊塔は地上と空から同時に攻める手筈じゃ。しかし、そう簡単にはいかんじゃろう。お主らは戦況を読んで柔軟に動いてくれ。これだけのドリームウォーカーが加われば、必ず戦況は変わる。頼んだぞ」
「任せて下さい」とユウトは爽やかに答えた。
「エリ、一人で大丈夫か?」
一人だけ背を向けるエリにリュウが声をかけた。
「誰に言ってんのよ。あんたたちがいると逆に足手まといよ。さっさと行きなさい」
「エリさん……」
エリはにこやかに「大丈夫よアオイちゃん」と言った後すぐに真顔になり「リュウ、アオイちゃんに何かあったら、殺すから」と吐き捨てた。
「うるせえな、分かってるよ……ここは任せたぞ、無理はするな」
その言葉にエリは一瞬訝しげな表情を見せたが、すぐに「なにその男の余裕みたいなの。『無理はするな』? 似合わないからやめなさいよ」とぷいと顔を背けた。しかし、態度とは裏腹にどこか嬉しそうだ。
そのやり取りに、アオイの胸の奥が少しざわついた。
マルベックたちに連れられ、エリ以外の全員がガシャの根に着いた。
「身体をつけろ」
アオイは天を仰ぎ見た。まるで「ジャックとそら豆」だ。
言われたとおりにアオイは背中をガシャの根に付けた。途端に白い菌糸が全身を覆い始める。やっとハルキのいる世界に行ける。ハルキに会える。アオイは掌を力強く握りしめた。
前方の幻影城から続々とサムライが出てくる。ものすごい数の騎馬や歩兵の中心にエリがいた。
(エリさん……どうか無事で)
やがて全員が静かにガシャの根に取り込まれた。
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