想いはいつまでも・・・
勝利だギューちゃん
第1話
この世に生を受けたあらゆる生物は、
その終焉の時が来るまで、歳を取り続ける。
人間も例外ではない。
そして、人間は写真を発明した。
若かき日の、そして今の自分を、記録に留めるために・・・
僕は、いや、もう還暦近いので、わしとするべきか・・・
わしは写真が嫌いだった。
わしの顔は、醜い。
こればかりは、親のせいだとう。
それは、否めない・・・
自分の醜い顔を。後世に残しておきたくない。
そのために、写真に取られることを、拒み続けた。
しかし、集合写真はそうはいかない・・・
どうしても、撮られてしまう、
わしは、自分の写真は、集合写真を含め殆ど処分している。
しかし、例外に残している写真がある。
それは、高校の頃、当時片思いだった女の子と。
卒業記念に撮ってもらった、ツーショット写真だ。
付き会いたいとか、デートしたいとか。頭になかった。
身の程はあきらめている。
ただ、思い出が欲しかった。
彼女は、快く承諾してくれた・・・
その女の子とは、それっきりだ・・・
写真も送っていない・・・
今でも、時々その写真をみるが、すっかりとセピア色になっている。
写真の中で、彼女は満面の笑みを浮かべている。
それに引き換え、わしはどうだ・・・
まるっきり自信のない、つまらないしけた面をしている。
何もなかった。趣味も生きがいも・・・夢すらも・・・
ただ、この歳まで、完全に惰性に生きてきた。
適当に大学を出て、適当に就職し、今にいたる。
辛いこともあったが、わしは辛いと思ったことはない。
当然独身だ・・・
今も鏡を見るたびに、「しけた面してるな・・・」と。
ため息が出る・・・
「今のわしを、あの子が見たら、どう思うだろう。
もう関係ないか・・・」
あの子の事は気になるが、会いたいと思ったことはない。
「今の自分を見せたくない」
その気持ちが強い。
もしあの子が、今のわしを見たら、こういうだろう・・・
呆れながら・・・
「変わらないね」と・・・
わしの仕事・・・わしの仕事は・・・
ピンポーン
ベルが鳴った。
「先生、原稿いただきに参りました」
そういや、今日から担当編集者が変わるといってたな・・・
ドアを開け、担当編集者を招き入れる。
「先生、原稿出来ていますか?」
「うん、出来てるよ。ハイ」
そうやって、原稿を渡す。
「ありがとうございます。確かに受け取りました。」
「これから、よろしくね」
「ハイ、こちらこそお願いします」
そして、名刺を渡された。
「先生。」
「何?」
「私の母が、先生のファンなんです。一度会ってあげて下さい。」
そう嘆願したその子の顔は、遠い昔に会った、あの子の面影があった。
想いはいつまでも・・・ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu
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