43.エスケープの合図を送れ
「あらー、瞳ちゃんの彼氏くんじゃないの」
散歩がてらに夜食を買い、その辺をうろうろしていると、家の近くで隣の家のおばさんと出会った。
「ああ、どうも」
「もう、瞳ちゃんたらいつの間にこんなにかっこいい彼氏くんを見つけたのかしら。うちの子も言ってるのよ。『瞳ちゃんの彼氏かっこいいね』って。瞳ちゃんも年頃の娘さんだったのねえ。瞳ちゃんはこんな小さい頃から知ってるけど、昔っから男勝りな子でねえ。おばさん、彼氏がちゃんとできるのか心配してたのよ。ほら、瞳ちゃんっていい子なんだけど女の子にしたらちょっとサバケすぎなところがあるでしょう。あ、ごめんなさいね。悪く言うつもりはないの。でも瞳ちゃんもやっぱり女の子だったのねえ」
千也に全く口を挟ませず、おばさんは止まらない。
ふと見ると、通りの向こうに瞳の姿。
声をあげようとした千也に、彼女は静かにと、歩きながら人差し指を口に当てる。
「瞳ちゃんも目が高いわ。一体どこで知り合ったの?ナンパかしら?そうよねえ、瞳ちゃんも可愛いものねえ」
千也は目で助けを求める。
瞳は右手をグーにし、胸の前で握った。
『ファイト』
「瞳ちゃんとはどこまで進んでるの?結婚式はいつかしら。そうだわ、いい結婚式場知ってるのよ。うちの上の娘もそこで式を挙げたんだけど、ウエディングドレスは種類が豊富でね、瞳ちゃんも気に入ると思うわ。あなたはそうね、タキシードかしら。ああでも、上背があるから和装も似合いそうね」
足早に去って行く瞳を恨めしげな目で追う。
千也はおばさんが夕飯の時間を思い出すまで、果てのないお喋りに付き合わされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます