同居人

川辺都

1.異人館で逢いましょう

 ネモカルア王国大使館。

 豪華な来客室のソファに身を沈め、沢野瞳は物思いにふけった。

 短大時代の恩師の友人の父親の義理の兄からの伝手で一ヶ月間、海外からの下宿人の世話を頼まれた。

 瞳は一軒家に一人暮らししている。下宿人をおいても構わない。

 問題は法外なその下宿料だ。

 まともな話ではないと思った。だが、しかし。

 下宿させる相手がネモカルア王国国王の双子の兄弟とは誰が思うだろうか。

「よかった、瞳が美人で。不細工な女だったらどうしようかと思った」

 センヤ・フィン・ネモカルア。そう名乗った青年は日本人と似た、けれどどこか異国の血が混じった顔で笑った。

「オレ、ハーフなんだ。母親は日本人。十五まで日本で育ったから文化の違いは心配しなくていいよ。あ、瞳はオレのこと千也って呼んで」

「呼び捨ては止めていただけませんか」

「じゃあ、瞳ちゃん」

「ちゃん付けされるぐらいなら呼び捨てでいいです」

 日本大使のリーメと名乗った初老の紳士が千也に耳打ちする。

「センヤさま、あまり失礼なことを言って沢野さんに断られたら、適当な人間を探し出すまでにまた時間が……」

 聞こえてますけど。

 まあ、ここまで話を聞いてしまっては、断るわけにもいかないだろう。

 報酬はいいし。

「お引き受けいたします」

 こうして、千也は瞳の家の下宿人となった。

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