第4話 エスケープ・フロム・コンビニエンスストア


 コンビニのトイレには窓がついているが、万引き対策だろうか、施錠されていて開かなかった。

 トイレの出入り口も、連中にガッチリ固められてる。


 つまり、俺に逃げ場はない。

 となると、チャンスはもう店を出て、車に乗り込む瞬間くらいなものだ。その時しか無い。


 緊張からか、わずかしか出ない用便を済ませ、トイレを出る。


 タラララ~♪テテン♪タララ~♪チャチャッ♪


 俺の心境をあざ笑うかのように流れる脳天気なBGMの中、コンビニを出ようとしたその時、俺を確保していた小暮が振り返り、買い物中の男に声をかけた。


「おい新羽。パンだけじゃなく飲み物も買ってこいって、いつも言って……」


 今だ!

 一瞬のスキを突いて、小暮の包囲をすり抜けた!

 そのままコンビニの駐車場を走る。


 やった!うまく虚をつけた!

 体がついてこないでジタバタした動きになったが、逃げ出せた!

 奴らはガタイがでかい分、動きは遅い!こうなればヒョロガリの俺が有利だ!

 さわやかな青空の下を、めいっぱい駆け出す。こんなの何年ぶりだろう。


 そのままコンビニの広い駐車場を抜け、角を曲がろうとした瞬間、上半身に強烈な抵抗感。


「うごっ!?」


 首がガクンとなって振り返ると、いかついジャージ男……小暮が、俺のTシャツの首根っこを捕んでいた。


 あれれ?もう追いついちゃったのですか?

 郊外のコンビニのだだっ広い駐車場をすっ飛んできたのか?俺のほうがスタート早かったんだぞ?20メートルくらいを一瞬で?速すぎない?


 これはもしかしてあれか、こいつらは筋肉があるからだろうか。

 服の下からでもわかるほど筋肉があるから、瞬発力が段違いとか?

 誰だよ『ガタイがいいと体が重いから、動きは遅い』とか言ったバカは。


「アハハ、捕まっちゃった~。やっぱ駄目ですよね~……ぐげっ!」


 唐突に腹に衝撃が走り、膝から崩れ落ちる。


「おっと。お前が暴れるもんだから、手が当たっちまったよ」


 えっ?なに?俺、殴られた?

 衝撃で腹に力が入らない。銃弾を打ち込まれ、腹がまるごと吹っ飛んだみたいな衝撃だ。

 もんどり打ってコンビニの駐車場に転がる。


 ガスッ!ガスッ!


 そして倒れた込んだところを蹴りつけられる。

 踏みつけられた硬質ゴムの靴の裏が、背中や腰に当たってものすごい痛い。

 最初に殴られた腹も、痛みを訴えている。


「ちょ……やめ、ほんと!勘弁!」


 俺を襲うえげつない暴力に、俺はストップをかける。

 っていうか、ここコンビニの前だぞ?天下の往来だぞ?頭おかしいだろ!

 他の男が「小暮さん、ここじゃマズいっすよ」と言い、小暮は蹴りを止めた。

 コンビニの店員が店内からこちらを見て、唖然としていた。


「ゲホッ……ゴホッ!」


 殴られた腹が鈍痛でねじれそうになる。ゼーゼー言いながら息を整える。

 こいつらみたいな怪しい施設の中には、暴力上等みたいなやつもある、って聞いたことあるけど、まんまそれじゃーねか。ってことは、このまま連行されたら、マジで命の危険がある!


「おい、どうなってんだよ!訴えるぞ、このヤクザ!」


 うずくまったところをを引きずられ、車に乗せられそうになったところで、歯を食いしばって物申す。

 この手の連中は、やべーやつだったりするんだろ?だったら法的に……


「俺たちはヤクザとは関係ないよ?ただの団体職員だからね」


 コンビニで買い物を済ませたのか、新羽と言われた神経質そうなジャージ男は、俺に対してそう言った。あれ?ヤクザじゃないのか?


「だとしても!こんなの拉致監禁と傷害事件じゃないか。俺が被害届だせば……」


「警察に行っても無駄だぞ?俺たちは合法でやってんだから」


 なんだよこいつら。

 白昼の往来で暴力沙汰やっておきながら、なんでこんなに余裕なんだ?

 ありえないことしときながら、なんでこんなに偉そうにしてんだよ。


「警察含む公務員ってのは、納税者の味方だからな。ニートのお前より、俺たち社会人の味方なんだよ」


 ……ハァ? こいつらは、警察は俺を助けてくれない、と言った。

 確かに俺はニートとも言える存在だよ。消費税くらいしか払ってないし、社会の役に立ってないかもしれないけど、おかしいだろ。

 こんな暴力猿でも社会人だから上なのか?納税額うんぬんでこんな行為も肯定されるのか?おかしいだろ!


「だからこれから、お前も社会人になれるよう教育し直されるんだ。わかるか?」


 小暮と呼ばれてたジャージ男は、子供を諭すかのように言って、俺の顔を殴った。

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