引きこもり支援施設におけるサバイバル
疎達川るい
一章
第1話 拉致 part1
「ギャハハハハ!」
ブッ!
PCで動画を見ながら、爆笑して屁をこいた。
「あ~~やっべぇ、マジ笑ったわ」
徹夜でネトゲして、仮眠から明けた気だるい昼下がり。
ゴミにうずもれた部屋の中、PCに向かい、ブラウザをカチカチ。何か面白いものを求め、屍肉を探すハイエナのようにネットを徘徊する。
それが俺の毎日。今日もアニメ消化と動画鑑賞が終わった。すると一気に暇になる。ネットサーフィンしても面白いものが何もない。
そのように、いまいちパッとしない時間が平日昼。俺みたいな高等遊民にとっては非情につらい時間である。
やっぱり昼は配信者も少ないし、ゲームもマッチングが遅い。夜と違って、SNSで絡む人もいない。まるで閑散とした荒野のよう。
「なんかつまんねぇなぁ……よし、掲示板でもアホでも釣るか!」
俺はキーボードを手繰り寄せた。
なんだかスッキリと晴れない気分を晴らす、っていうとこれ。
カタカタカタカタ……カタ、カタカタ……ッターン!
薄暗い六畳間に、俺のタイピング音が響く。フフフ……これで良い。
しばらく待ち、ニヤニヤしながらブラウザを更新すると、新着のレスが目に飛び込む。
「プププ……ヒャーッハッハッハ!!こいつら騙されてやんの!俺が国立大卒、年収二千万オーバーの超エリートだって信じて、真面目に話聞いてるよ!!」
俺はしょうもない掲示板で、ウジウジナヨナヨ雑談してる連中のところに、唐突に上から目線のレスをぶっこんだ。
そして、いぶかしがる相手たちに、ネットで拾った超高級車と豪邸の画像を見せた。そうするとスレッドの中の連中は、簡単に俺を成功者だと信じ込む。
そうしてスレ内の連中は、成功者たる俺の言う事を何でも聞くようになったのだ。
「ククク……これだからアホを釣るのはやめられねぇ」
だから俺は
『死ぬ気で努力して、やっと一人前だぞ?』
『凡人なら凡人らしく死ぬ気でやれ。代わりはいくらでもいるんだ』
『覚悟が足りないからだろ』
と、スレ内で叱咤激励を飛ばす。
相手は「そうだな……」「一理あるわ」「耳が痛すぎる」と、俺の話でどんどんヘコんでいく。
そうやって、勝手に高収入のエリートから言われたと思ったら、なんでも話をホイホイ聞く。そんな卑屈な根性してるからお前らはダメなんだぞ?そこんとこわかってんのか?
……って、なんだ?スマホに通知が溜まってるじゃないか。
「おお?昨日適当につぶやいたデマツイートも5000RTいってるじゃねーか!それに転載動画の再生数も伸びてる!……うん、やっぱ俺すげーわ。これはもうネットじゃ俺が王者かもしれないな!」
勝利の余韻に酔いしれる。
掲示板、SNS、動画サイトといったネット界隈で連勝につぐ連勝。
これはもう、実質の覇者みたいなものである。やはり世の中は、俺がいなければ動かない感すらある……
グウゥゥ……
その時、俺の腹が鳴った。
ひとしきり達成感を味わったら、今度はリアルで腹が減ってきた。よし、昼飯だ!
耳をそばだて、部屋の周囲に気配がないか確認する。誰もいないようなので、そそくさとドアを開け、部屋の前に置かれた昼食を回収する。
勘のいい人ならお気づきになるかもしれないが、俺はこういうライフスタイルの人間。あれ、なんて言ったっけ?引きこもり?だっけ?そんな不名誉な言われ方をされる系の?まぁ覇王である俺には関係ない系だけど。
そんな俺くらいになると、ランチはいつも自室前に運ばせてるのだ。
そんな俺の今日の昼飯はそうめん。
トレーにそうめんとつゆ、そして薬味の皿が乗せられていた。まぁ昼飯としては及第点か……って!
「あのクソババァ……ありえねぇ……!」
とんでもないことに気づき、俺の怒りに火がついた。
「に、に、に、肉がねーじゃねーか!!」
ドンドンドン!
床を踏みつけて大きな音を鳴らし、階下にいるババァへとプレッシャーを与える。この食事を作った、愚かな愚かな母親に。
生物界の頂点である霊長類。その霊長類を万物の霊長たらしめているのは、その精神や知性のはたらきである。
さらに人間の精神世界の象徴であるのがネット世界。
そのネットの王者との呼び声も高いこの俺は、言うなれば覇王だよ?その覇王の昼食に肉がないとか、ナメてるってレベルじゃない。これはもはや冒涜である。
そんな親に育てられたから、俺は本来の性能をフルに発揮できず、ネット世界での活躍に留まってるんだぞ?わかってんのか?
ドン!ドンドン!ドドドドドン!!
オイ!ババァ!ふざけんじゃねえぞ!!ドドン!なんで肉がねぇんだ!ドン!なんで俺がこんな思いしなきゃなんねぇんだ!ドドンドン!ゲーム機買うから4万出せ!ドン!ソフトも入れたら五万だ!金が無いならクレカを出せ!ドンドン!ゲームに課金しなきゃなんねぇんだよ!ドドドドド!俺はお前のせいでクレカを持てないんだぞこの野郎!!!
「ハァ……ハァ……ハァ……」
激情を迸らせ、いい加減疲れた。
連続エネルギー弾を放ったあとのベジータみたいな感じに息を吐く。
こんだけやっても階下のババァはノーリアクションだった。
顔も出さない。近頃めっきりババァは何も言ってこなくなった。きっと今回も何もしないだろう。
前はよく「ねぇ、公ちゃん……お願いだから働いて?将来のことを真剣に考えて?」とか言ってたくせにな。この俺に向かって。
他にもわけわかんねー病院に行けとか、職業訓練だとか、ナメたことばっか言ってた。
人をバカにしやがって。ネトゲでもランカーになれるほどの俺を、無能扱い、病気扱いしやがったんだ、実の親が。
だからさすがの俺もキレた。思わずカッとなって、居間の物をぶっ壊した。皿やコップをブン投げて、ちゃぶ台返しをした。どうもそれが効いて、おとなしくなったみたいなんだよね。
うん。そうだよ。わかってくれればいいんだ。俺も鬼じゃない。決して手荒なことはしたくない。だから至急、コーラとピザポテトを買って来て欲しいんだよね。
『ピンポーン』
その時、下の階からチャイムの音が聞こえた。そして玄関で何やら話が始まる。
なんだ?知り合いでも来たのか?
そんなことより、メシが足りないんだが?
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