火花を刹那散らせ

木元宗

第1話


 どうなっているんだ。


 関節が錆び付いてしまったような我が身の動きに、目を疑う。


 露骨に偽物臭い雲と空。


 嫌に四角い山と森。


 妙に直線的な川と、海岸線。


 遥か上空から飛行機で運ばれ、パラシュートでこの無人島に降り立った私達1,000人は、全員が勝利に飢えた、獣達。


 最後の一人になるまで、この戦いは終わらない。


 かつては人々が暮らしていたのだろう。橋や家屋などといった生活の跡が、島内を探索していると度々出くわす。だがそこは要注意だ。私と同じ獣達が、息を殺して潜んでいるかもしれないのだから。


 このゲームの主催者が、島内のあちこちに用意しておいた得物……。私達の相棒となる様々なオモチャ・・・・が、特にこうした屋内では、今か今かと誰かの手に収まるのを待ち侘びている。


 私の右手、遠くに峰を置く草原に、銃声が轟く。


 遠くから、空を割るように響く、一発のいななき。


 狙撃手スナイパーか。


 峰の麓から草原に広がる林へ、咄嗟に散弾銃ショットガンを構えた。


 長射程ロングレンジからの狙撃スナイピング狙撃手スナイパーの典型であり、基本かな。その人のスタイルにもよるけれど。


 潜伏し、物陰からチャンスを窺うのではなく、突撃して積極的にチャンスを取りに来るタイプの狙撃手スナイパー――。通称とつスナでなかった事に感謝しつつ、すぐに散弾銃ショットガンを下ろすと、前方の家屋を目指し走る。銃声は聞こえたけれど、こちらを狙っている訳ではなさそうだ。音が鳴っている方向が全然違う。


 家屋は洋風の一戸建て。この世界では、よくある形のものだ。接近するまでの間に、周囲には誰もいない事を確認している。


 一応、右手の林への注意を怠らず家屋に近付くと、散弾銃ショットガンを携えたまま、背中を壁に貼り付けた。左手に見えるドアを、ゆっくりと肩で開ける。


 きぃと、緊張感を加速させる音が鳴った。


 まずは慎重に押し開けると、一気に蹴り開ける。


 同時に散弾銃あいぼうを、前へ構えた。


 頭上でぎらぎらと輝く太陽の光を浴びた屋内は、ほんのりと薄暗い。……長く使われていなかったようだ。埃が積もっている。


 玄関からすぐに広がるリビングらしき部屋に置かれた、脚の短い木製のロングテーブルには、手の平サイズよりはまだ大きい、紙製の弾薬箱が二つ。


 しめた。


 素早く回収する。


 中身は短機関銃サブマシンガンの弾と、散弾銃ショットガンの弾……。ツイてる。


 得物を散弾銃ショットガンから、背負っていた短機関銃サブマシンガンに切り替え、手に入れた弾を再装填リロードした。


 ついさっきの事だ。市街地からこの郊外へ抜け出す際、他の挑戦者達に見つかり銃撃戦となった。何とか撃ち勝ったものの、得物は弾切れ寸前まで追い込まれている。


「っておっと!?」


 突然左手の窓が割れ、ロングテーブルの左手に回りながら身を屈めた。


 ガラスが砕け散る音が止むのを待たず響くのは、ダダダダダダダダッと、連続的な発砲音。


 短機関銃サブマシンガンだ。


 射手はどこだと、ロングテーブルから顔を出し、窓の向こうを見る。だがすぐに弾丸を撒き散らされ、姿を捉える前に身を屈まされた。


 どっちにしろ、奥に市街地がある左手からの攻撃だ。


 発砲はまだ止まず、ロングテーブルの上に蜂の巣状の弾痕を作り続ける。


 鼓膜を破るような発砲音と、ロングテーブルの木片が飛び散る嵐の中、屈んだまま素早く前進すると、正面に見えるドアを右肩で破った。


 現れるのはバスルーム。


 でも目的は、ここじゃない。


 ドアを押し開けた所で、短機関銃サブマシンガンから離した右手を背中に回す。ショルダーポーチにしまっていた手榴弾グレネード――。種類は煙幕スモークをしっかり握ると振り返り、何者かに撃ち破られた窓の足元へ投げ込んだ。


 ――動きが固い。


 関節が軋むようなぎこちない自分の動作に、つい歯軋りをする。


 まるで、錆びたロボットにでもなった気分だ。


 百点満点の狙い通りとは程遠いが、何とか及第点は与えられるポイント――。やや手前にはなったが、何とか窓の下へと落下した手榴弾グレネードは、白い煙幕スモークを噴き出し始める。


 窓の向こうの射手の動揺を表すように、発砲が止んだ。


 ……やっぱり本調子とはいかないか! 


 苛立ちを堪え、煙幕スモークが噴き出した隙にリビングへ引き返す。


 すぐに床へ半円を描くように、バスルームの隣にあった部屋へ入った。


 だだっ広いが、キッチンだろうか。家屋の奥行きはここまでらしい。まあそんな事はどうでもいいと、右手に備えられた窓へ肩と頭から飛び込み、ガラスを身体で破ると外に出る。


 宙で一回転すると両足で着地して、上体を起こすと壁伝いに、射手がいるだろう左方向へ全力で走り出す。


 銃声が止んでいるのは、耳でしっかり補足済みだ。


 さあ何コンマで出くわす? あと一歩? 二歩? 三――。


「ハロー?」


 家の中から見れば丁度キッチンの角――。そこを左折した途端にばったり出くわした、短機関銃サブマシンガンを抱えたTシャツジーンズに坊主頭な黒人男に、走りながら持ち替えていた散弾銃ショットガンをお見舞いする。



 バコン、とも、ドカンとも言えるような一撃が、黒人を吹っ飛ばした。


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