想う人

勝利だギューちゃん

第1話

ここは、宇宙なのか・・・

何も見えない、何も聞こえない、

でも、息は出来る。

ということは、宇宙ではない・・・

なら、ここはどこだ?

そもそも僕は、誰だ?


「知りたい?」

「えっ」

「ねえ、ここがどこだか知りたい?」

「うん」

「教えてあげる、こっちに来て・・・」


答える間もなく、体がひとりでに動いていく。

そして、ある場所に辿り着く。

そこは、初めて来る場所だった・・・


「ここはどこだ?」

「あなたの、知りたがっていた場所よ」

ふりかえると、1人の少女がそこにいた。


「君は一体・・・」

「私?」

「うん・・・」

「なら答えて、あなたは誰?」

「・・・わからない・・・」

「わからない?」

「うん・・・僕は誰なんだ?どうして、あんなところにいたんだ・・・」


彼女は、しばらく考えた後、重い口を開いた・・・

「じゃあ、ここが何年何月何日かわかる?」

「・・・わからない・・・」

「だよね・・・」

「君は知ってるの?」

彼女に訊いてみた。


「今日は、○○年△△月××日よ・・・」

「それって、僕が生まれた日じゃないか・・・」

僕は驚いた。


「どうして自分の名前が思い出せないのに、生まれた日は覚えているの?」

「それは・・・」

僕は言葉に詰まった。


「教えてあげるわ。その答えは、あなたはこれから生まれてくるからよ」

「これから・・・」

「性格には、過去のあなただけどね・・・」

「過去の?」

「うん、着いてきて・・・」

彼女に着いていく・・・


そこは産婦人科だった。

分娩室の前には、知っている男性がそわそわしていた・・・

「あれは・・・父さん・・・?」

「正解、あなたのお父さんよ、そして今、分娩室にいるのは、あなたのお母さん」

「お母さん・・・?」

「そして、今から生まれてくる赤ちゃん、それがあなたよ・・・」


しばらくすると、分娩室から、大きな泣き声が聞こえてきた。

若き日の父は、室内に入って行った。

若き日の母の手を握り、赤ちゃんの僕を抱いて幸せそうだ・・・

その瞬間、僕は自分の事を全て思い出した。


「わかった・・・」

「えっ?」

「あなたは、望まれて生まれてきたの・・・

生を受ける事を許されなかった、あなたとは違うのよ・・・」

彼女の口調が険しくなる。


「いい?あなたは自分はひとりだと思っているけど、それは違う。

あなたが気付いていないだけで、あなたを想ってくれている人は、たくさんいる。

だから、お願い。もう、死のうなんて思わないで・・・」

「待って・・・君は一体・・・」

「あなたの幸せを願う者よ・・・精一杯生きてね・・・」


気が付くと、僕は病院のベットの上で目を覚ました。

僕を心配そうに見つめる、両親の姿があった。


僕は服毒自殺をはかったらしいが、発見が早くて助かったようだ・・・

両親は何もいわず、ただ泣いていた・・・

「ごめん」

僕は、そうとしか言えなかった。


後日、聞かされた。

実は僕を生む数年前に、母は赤ちゃんを流産していたことを・・・

それも、どうやら女の子らしかったことを・・・


僕はようやく落ち着いて、墓参りに行った。

母が流産した、赤ちゃんの墓だ。

そして、こう呟いた。

「ありがとう。お姉ちゃん」


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想う人 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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