美少女たちとネコたち、異星へと飛び出す。

齋藤 龍彦

第1話【美少女、ネコに愚痴をこぼしてしまう】(主人公は、一見普通の美少女だが)

 主人公は相当の進学校に通う美少女。

 が、そこで学業に行き詰まり友だちもいない。そんな彼女の話し相手は通学途上の空き地にたむろう野良ネコたちだけとなっていた。しかし実際のところ主人公はネコたちを餌づけしているに過ぎなかった。


 そんな時である。空き地の野良ネコたちの上空に突然UFOが現れる。UFOは下部から謎の怪光線を発し野良ネコたちを機内へと吸い上げていく。主人公は咄嗟に動き出し謎の怪光線の中へと飛び込む。「あっ!」と思った時は後の祭り。野良ネコたちと共にUFOの中へと吸い上げられてしまった後だった。


 UFOは宇宙空間へと航行を始めていた。真っ暗な窓の外に絶望する主人公。いよいよ主人公の前に遂に宇宙人が現れる。その宇宙人の容姿は——なんと美少女だった。


 宇宙人が奇怪な姿ではなかったのをこれ幸い、俄然強気になった主人公は『自分とネコたちをすぐに地球に戻すように』と要求する。しかし美少女宇宙人はこれを拒絶。互いに言い合いを続けているうちにいつの間にか主人公は美少女宇宙人とコミュニケーションを成立させていた。


 その結果主人公は異星での教育事情を知る。全ては学費というカネの問題だった。美少女宇宙人の目的は進級するために「終わってしまったテスト用紙」の改ざんをすること。ネコたちはかの異星においては非常に気味の悪い宇宙生物と認識されており、これらネコを解き放つ事で起こる混乱状態につけ込む算段だった。


 とても成功するとは思えなかったがやむを得ず主人公は美少女宇宙人の計画に荷担する。しかし案の定計画は失敗。完全犯罪とはいかない。主人公は自らの交渉力で己の身を救わなくてはならなくなったのだが——野良ネコたちを犠牲にして自分だけが地球に戻ることに成功する。そして地球で罪悪感にさいなまれる主人公の元へと野良ネコたちが姿を変えて戻って来る。主人公は幸せになれるのかなれないのか、という物語。



                 (第28回スニーカー大賞応募用あらすじ)






【以下、本編】


 美少女っ、美少女っ、双葉通美砂は美少女〜っ♫

 中途半端に長い髪を軽くなびかせ心の中でだけ軽やかにスキップを踏むわたし。

 双葉通美砂(ふたばどおり・みさ)とはわたしの名前。わたしのことだからわたしはこんなこと口に出してはもちろん言えない。だけどわたしはわたしのことを『美少女』だと思い込むことにしている。

 『思い込む』ということは客観性に若干欠けるかもしれない……ということ。 

 美少女は、美少女なんだからちやほやされるもんでしょ。なのに人が近づいてこない……だなんて! こんな現実わたし認めたくないっ!!


 昔、思ったことをなんでも口にしてしまうおかしなコと友だちだったことがある。そのコはこう言ったものだ。

 「美砂ちゃんってお顔が怖いねー」と。

 むろん即座にケンカしてそのコとの仲はそれっきりになった。

 それから何年も経ちなぜかその言葉がふいに脳裏に浮かび上がり自分の顔を鏡に映し改めてまじまじとよくよく見てみた。

 言われてから何年も経ったから分かったことがある。

 あのコの言っていたことには一応の理がある……

 だけど一応だから。あくまで『一応』だから! 『イ・チ・オ・ウ』だから!


 わたしの自慢はこのおっきな目だ。

「目が大きいね」「パッチリしてるね」と言われ続け、すっごく小さい頃からわたしはわたしのことをカワイイって思っていて小学校中学年の頃には自分のことを美少女じゃないかと信じ込んでいた。いえ、今でも思ってる。けっこう美少女じゃないかって。

 だがその自信はもう少しおっきくなって小学校高学年になって脆くも打ち砕かれることになる。打ち砕いたのがあのおかしなコだ。しかもそのコの同調者は複数いた。


 実はわたしは鼻も少しだけ高い。すっ、と鼻筋が通っている。これもわたしの少しの自慢だ。

 だが鼻が高いということは鼻の穴も通常より少しだけ大きいという理屈になる。実際のところ他人の鼻の穴の直径など計ったことはないのだけれど、誰かに言われたわけでもないのにある時から急に鏡に映る自分の顔の鼻の穴が気になり始めた。

 それで写真を撮るときは顎を引き、鼻の穴があまり大きく写らないように工夫していた。だが顎を引くと必然的に目が上目遣いになり、しかもわたしの目が大きいため黒目が目の下のラインから、すっ、と離れてしまう。

 こういう目のことを『三白眼』というのだと、かなり後になって知った。

 三国志の曹操さん(?)だっけ。三白眼だったらしい。

 正直なところ『良イもん』じゃないよね。善人に見えないというか。一般論としてはそういうものだ。だけどこの時はそんなことはまったく考えていなかった。

 でも当時は少しでも写真写りを良くしようと思って——ぜんぶそんな調子だった。

 さて問題はその結果だ。

 修学旅行だとか卒アルだとか写真ってずっと残るものだから、わたしはすべからく怖〜い顔で写真になっていた。写真写りを良くしようと工夫したのに——


 ともかく顔は写真に写ったものが全て。人は写真を見て人の顔を判断する。

 かくしてわたしは『怖〜い顔した女の子』になり、だ〜れにも美少女だとは思われないようになったっぽい。(まあ面と向かって『美少女だね〜』と言う人もいないけど)

 だけどわたしは美少女をやめてはいない。やめるつもりもない。

 美少女にもいろいろあるんだ。だからわたしは『普通の美少女』。


 さて、わたしはわたしの顔を悪く言ったコを片っ端から切っていった。それ以降なぜか今もその状態が継続中。小学校を卒業し中学校も卒業し高校に入っているというのに。ちなみに『切る』といっても本当に刀かなんかで斬ったわけじゃないので念のため。


 孤立。ただ今わたし絶賛孤立中。


 わたしは学校指定のカバンの中からビニール袋に移し替えたナニカを取り出す。中身は赤茶色、焦げ茶色、緑茶色(『りょくちゃ・いろ』ではなく『みどりちゃいろ』、ね)の小玉が多数。

 周囲を注意深く窺う。よし、大丈夫そう。走り出す! 半年前まで空き家が建っていた空き地に踏み込む。街の中に空き地があるのは古い漫画の中だけじゃない。ここ、けっこう交通量の多い表通りから道一本入っただけのトコだけど現に空き地はある。この手の空き地はここだけじゃなくこの辺りにいくつか存在している。決して珍しくはない。

 ここの空き地の所有者に売るつもりがないのか買う人がいないのか、赤いコーンがふたつばかり立つだけ。ろくに管理されていないことは雑草生い茂るその草むらからして明らかだ。

 ——そしていつの間にかこの場所はネコたちの溜まり場となっていた。


 ビニール袋の中身はキャットフード。これが小玉たちの正体。わたしはキャットフードを地面にばらまく。あっという間にネコたちが群がってくる。

 わたしのしている『悪いこと』。

 それは野良ネコの餌づけ。


 ネコたちがわたしの撒いたキャットフードを食している。


 みゃー。なー。にゃあ。

 ネコたちが鳴いてる。

 うーん、カワイイ。特にこの『黒白のぶち』が。いいえ『黒白ぶちちゃん』が!

 ねこ、ねこ、黒白ぶちねこ〜っ(鼻歌)


 改めてきょろきょろと周囲を窺う。誰もいない。よしっ今だ。そのネコを見つめながら思いを声に出して言ってみた。心持ち小さな声で。

「凄い進学校って勉強のできないコには居にくいよね——」

 ネコにだけ打ち明けるわたしの本当のキモチ。


 いまなにげに『凄い』なんて言ってしまったけど人に自慢するつもりなんて少しも無い。『良い大学』へと繋がらないのなら『良い高校』なんてなんの意味もないというこの現実——なんでわたしこの高校に合格できているんだろう? 小さな小さな声で喋り続ける。


 顔が怖いからわたしが孤立してるなんてわたしの、嘘、嘘、嘘。

 今のわたしが孤立しているのは顔のせいなんかじゃない。わたしが孤立しているのは勉強ができないせい。むしろ逆にこの顔には感謝しなくちゃいけない。

 勉強のできないコはとことん蔑まれる環境にいながらなにしろ誰にもちょっかいを出されない。だ〜れも干渉(イジメ)してこない。勉強のできない落ちこぼれなのに……


 時々わたしでも極めて事務的な内容でクラスの人と話しをする時がある。そんな時相手がやけにぎこちなく丁寧なことばで接してくる。


 まさか……この顔のせいでは……? と考え始めたのはここ最近のこと。わたしはこの怖いお顔のおかげで平穏な高校生活を送れているのではあるまいか。その一方で美少女としての自信が揺らいでいく。

 揺らいでいるだけで崩れたワケじゃないからっ! と空しく自己弁護。

 少し自信のあったこのお顔は誰からも美少女だとは思われず学業も不振なこの高校生活——

 空虚に白化してる。

 そういう少しさみしい日常をわたしは過ごしているわけだけど、当然そういうのを埋めたくなるのが『人』というもの。

 そう、さみしさを紛らわすためわたしは悪いことをしている。それが野良ネコの餌づけ。わたしって『不良美少女』かも。


 昔から『不良少女』ってことばはある。だけど『不良美少女』って無いんじゃない?

 『不良美少女』ならなんか少しカッコイイかも。なんてったって美少女だし。


 おっと、いくら動物がことばが分からないからといって、わたしのストレスの捌け口にするのは忍びない。これら独り言が誰かに聞かれたら最期、メンヘラ認定確実だ。

 最後に、と少しだけ大きな声で「キミたち、気をつけるんだよ」とわたしはネコたちに言っていた。

 おかしな人間に殺されるネコのニュースを一定間隔で目にする。本当に非道い。

「女の子もね、同じなんだよ。お互い気をつけようね」

 目の前でキャットフードを食べ続けている『黒白ぶちちゃん』にまだ話しかける。

 おかしな人間に殺される女の子のニュースも一定間隔で目にする。本当に怖い。


 よく「ネコになりたい」なんて言う人がいるけど、そんなに羨ましい立場でもないと思う。女の子はネコと同じくらい危ないんだよ。


 とは言えわたしはいつまでも近くにはいられない。わたしが餌をあげてることがバレてしまうから。写真撮られてSNSにアップされたら最悪だ。それはマズい。あっ、今さらながらに気づいたけど、制服姿でこんなことしない方がいいのか。どこの学校かすぐ分かっちゃうし。でもここ帰り道だし——


 わたしのしてること。それはネコたちに向かって『話し掛け』。

 愚痴を聞いて貰うんだから餌くらいはあげないとね。

 あっと、もうそろそろ切り上げないと。


 わたしは空き地の外へ出る。そして道からそっとネコたちを見守る。まだキャットフードに群がっている。

 ほんとうはもっともっと餌をあげたい。現に今もわたしのカバンの中にはキャットフードの余剰がある。だけど過剰に餌を食べてはダメ。なぜって、ネコメタボになるから。太ったネコをカワイイという人がいるけどそれは邪道。ネコというのは俊敏だからネコ。すまーとだからネコ。しゅっ、としてないと。

 うーん、カワイイ。特にあの『黒白のぶちちゃん』が。特にあのネコにわたしの餌を食べて欲しい。だけど太ってはダメ。今はしゅっ、としてる。

 このままでいて。でもわたしのキャットフード食べて。

 ほんとうはあの『黒白ぶちちゃん』をうちに連れて帰りたい。ううん。でもそれは可哀想。一匹だけお持ち帰りだと家族と離ればなれ。

 そんな少し無理のある『イイワケ』でじぶんを正当化してみる日常。


 どれくらいネコたちの姿態を眺め続けていただろう。上空は曇り。くすんだグレーがほんの少しだけ青みを帯びつつある。夕方空が迫りつつあった。

 住宅街の中って意外と人通りが少ない。わたしは頭上に嫌な気配を感じた。

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