心の風景

勝利だギューちゃん

第1話 訪問

「やあ、久しぶり」

高校卒業後、疎遠になっていた同級生の女の子。

いきなり、僕を訪ねてきた。

しかも、夜の8時に・・・


とくに仲が良かったわけではなかった。

時々、必要に応じて会話をする。

ただ、それだけの関係だった。


「なんかよう?」

僕は、ぶっきらぼうに訊いた。


「いや、用って程でもないんだけどね。

ただ、久しぶりに顔を見たくなって・・・」

(僕は、暇つぶしのおもちゃか)

内心ムッとしながらも、平静を装った。


「今、暇?」

「見ればわかるだろ。」

僕の答えに、彼女は苦笑する。


「ごめん、ごめん。なら、少し付き合ってくれない?」

(僕に断る選択肢が与えられてるのか?)

「わかったよ・・・」

「ありがとう」

「母さん、出かけてくるからね」

母親にその峰を知らせ、彼女と外に出る。

父はまだ帰っていない。


しばらく2人で歩く。

互いに無言なのが辛いが、ふたりの関係からして、当たり前だろう。


しばらくして、公園に辿り着く。

公園のベンチに二人で腰をかける。


すぐに彼女が声をかけてきた・・・

「ねえ、ひとつ質問していい」

「何?」

「私の名前を答えて下さい」

彼女の質問に、僕はとまどってしまった。


(そういやこの子の名前はなんだろう・・・

同級生である事、それは間違いない。

でも、名前が出てこない・・・

覚える必要が、なかったのだろう・・・)


「そういう君は、僕の名前を知っているの?」

「知らなきゃ、訪ねに行けないでしょ」

少しむっとしているようだったが、その奥には笑顔があった。


「じゃあ、君の名前はなんていうの?」

「あきれた・・・自分で思い出しなさい。」

少しふてくされているようだが、どこか可愛く感じるのは気のせいではないだろう・・・


「ところで、僕に何の用?」

彼女に訊いてみた。

そもそも、これが本題だ。

何か特別なことでもないと、僕を連れだしたりしないだろう・・・


彼女は少し考えて、

「たいした用でもないんだけどね・・・」

人差し指を、唇にあてる。

「君は、同窓会に全く出席しないよね?どうして・・・」

そう訊かれても困る。

(適当にお茶を濁そうか・・・いや、正直に言った方がいいだろう・・・)


「会いたくないからだよ・・・」

「えっ?」

「だから会いたくないからだよ・・・」

「どうしてなの?みんな会いたがってるよ」


見え透いた嘘はつかないでほしい。

僕に興味があるわけではない。会いたいのはいじりたいからだろう・・・

他にない・・・


その日はそれで別れた・・・

家に帰った。

「早かったわね」

母さんの声がしたが、僕はベットの上に横たわる。


彼女の名前を確認しようとしたが、卒業アルバムは捨ててしまい、

確認ができない・・・

(あの子は、だれなんだ?)

その疑問がまとわりつき、殆ど眠れなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る