第70話

 手芸店に行った友里は、レジン液とUVライトを購入した。

 そして、帰宅するなり工作を始める。


 用意したのは、購入したレジン液とUVライト、発泡スチロールにカッターナイフ、そして紙ヤスリ。


 友里は発泡スチロールにカッターで型を作り。ヤスリを使って形を整えていく。

 穴はちょうど、左右対称の抉れたひし形のような形になった。


 形が出来れば、発泡スチロールの粉を念入りに吹き飛ばし、気泡が入り込まないように注意をしながらレジン液を流し込む。


 四分の一ほどレジン液を流し込んだあと、UVライトをつけて液体を硬化していく。

 時間をかけて、確実に、丁寧に作り上げる。


 三十分ほどかけて出来上がったのは、半分が平らな立体的なひし形。もう一度同じ行程で半分のひし形を作り上げ、平らな面と平らな面とをレジン液で張り合わせる。


 最後に作り上げた立体的なひし形をヤスリで削り、形を整えより凶悪な物を作り上げる。


 出来上がったそれは、透明な鏃だった。

 作った理由は決まっている。弓矢の威力を上げるためだ。


 丁寧に丁寧に作り上げられたそれは、気泡のひとつも入らず、競技用に作られた矢の先端にも取り付けやすい形に出来上がっていた。


 友里は余った発泡スチロールで適当に的を作り、弓に弦をはる。


 そして、透明な鏃を取り付けた矢をつがえ、放つ。


 ズパンッ


 軽い破壊音が響き、的を用意した場所には穴の空いた発泡スチロールの残骸が残った。


______先端の重みで矢の飛びかたが変わった。慣れないと実用できない。


 友里は発泡スチロールの残骸を指でなぞりそう考える。


 復讐に燃える友里の顔からは、『表情かんじょう』は消え失せていた。


 ◇◆◇


 『上里町事件』から2回目の満月となるこの日。


 上里町の隣町である下里町に、とある噂が流れた。


 曰く、真っ赤なマフラーで顔を隠した小さな子供が弓矢を持って吸血鬼を狩り回っている。


 曰く、その子供はとてつもなく身軽で、ビルとビルの間を飛び回り、吸血鬼を追いかける。


 曰く、その子供は、『赤ずきん』と呼ばれている。


 曰く、『赤ずきん』の側には雨が降っている訳でもないのに常に黒いレインコートをまとった吸血鬼の男が付き添っている。


 曰く、そのレインコートの男は『死神』と恐れられている。


 混ざりあい、尾ひれ背びれのついた噂は、だんだんと拡大していき、広く、浅く、根を張っていった。

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