第67話
「……え?あいつは、一緒に遊ばないかって言っていたけど。」
「あそ、ぶ?」
友里の心の奥底を、何かがどろどろと融解していく。熱で浮かせて、溶かして、燃やしていく。
_____6代目は、
「だいじょうぶ?」
佐護は、呼吸の荒くなった友里を心配し、そっと友里の小さな背中を撫でる。
友里は口を二、三度、酸素不足の金魚のように開けたり閉じたりしたあと、喉から声を絞り出す。
「ろく、だいめは、どこにいるの?」
「あいつ?うーん、上里町のどこかじゃないかな。」
友里を大事そうに撫でながら、佐護は答える。落ち着いてきたのか、佐護の瞳に黒色が混じっていく。
分厚い雲から雨が数滴落ちて、友里と佐護の体をぽつりぽつりと濡らしていく。
雨に気がついた佐護は、友里を覆うように体勢をずらす。
熱を帯びた友里の脳内は、感情と理性と記憶と知識が入り乱れ、暴れ狂い、正に
そんな友里をギリギリのところで支えていたのは、皮肉にも吸血鬼である佐護だった。
焼き切れそうな脳幹を雨が物理的に冷やしていく。
______そうだ、私は、生き返りたいのだ。ずっと考えていたじゃないか。どうしたら良いのかを。
「ははっ、アハハハハハハハハ!!」
「君……!?」
突然、狂ったように笑い出した友里に、二人のやり取りを銃口を向けながら見守っていた巡査が、驚いたように声を出す。
「そうかそうだよね。何を考えていたのだろう私は!」
「………。」
急に叫び出した友里を佐護は愛おしそうに撫でる。
友里は、声のトーンを落として佐護に言う。
「ごめんなさい、佐護さん。私は、まだ死んでいる。人どころか生きてすらいない私に、貴方に愛される資格なんて持ち合わせていないの。」
「……ぼくは、今のままの君でも良いんだよ?」
優しく言う佐護に、友里は自虐的に首を横に振った。
「ダメなの。死んでいる私は、私が嫌なの。私が拒否するの。」
「……そっか。」
佐護は、残念そうにそう言うと、友里をそっと離し、アスファルトの上にのせる。そして、しゃがみこんで友里と目を会わせると、言う。
「じゃあ、友里ちゃんが生き返れたら、ぼくがむかえに行くよ。」
「……そう。貴方がそれで良いのなら、良いのじゃないの?」
「うん。じゃあね。」
佐護はそう言うと、友里から離れ、巡査のほうへと歩み寄っていく。
巡査は当然、発砲した。
二発、三発と佐護の体に銃弾が埋め込まれていく。が、佐護はそれらを特に気にするそぶりも見せずに巡査に近づくと、言った。
「自首、するね。抵抗はしないよ。ただ、他の吸血鬼の情報をたくさん持っているから、直ぐに死刑は止めてほしいな。」
「……へっ?」
あまりにもあっさりとした物言いに、巡査は驚く。
数分後、随分と遅れてやって来た吸血鬼討伐委員会の人間に、佐護は無抵抗でついて行った。
別れ際、佐護は友里に短く言う。
「待っている、からね。」
雨は、だんだんと強くなっていった。
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