第66話
友里がほっと一息をついた、その時。
「君!逃げろ!!」
巡査の大声が響く。
それに、友里は反応することができなかった。
「えっ!?」
浮き上がる体。滑り落ちる弓。
「ねえ、ねえねえ。友里ちゃん。」
焦点の合わない目で友里を抱え上げるのは、佐護。
ほんのり潤んだ真っ赤な瞳は、真っ直ぐに友里を見つめている。
_____これは、死んでしまう。
佐護のすぐ側に友里がいるため、巡査は発砲することが叶わない。友里は弓も矢も無いため、攻撃することは叶わない。
佐護は、友里を抱え上げたまま、口を開く。
「あのね、僕は、虐殺してないよ?誘われたけど、参加しなかったの。」
「………。」
子供のような言い方をする佐護の言葉を、友里は静かに聞く。
巡査が必死に無線に声を吹き込む音が、ぼんやりと聞こえてくる。
「6代目が、一緒に遊ばないかって言っていたけど、たくさん人間を殺すのは悪い子だから。だから、僕、良い子だよ。お腹が空いても、生きるのに必要な分しか食べてないもの。」
懇願するような佐護の言い方に、友里は一瞬、佐護が何をするつもりなのかが読めなくなった。
佐護は、まるで繊細な人形を触るかのように友里をそっと優しく抱き締める。
佐護は、友里の優しい
「友里ちゃんが、欲しい。僕を許してくれる友里ちゃんが。」
歌い聞かせるように、囁くように、佐護は友里に言う。それは、紛れもなく告白だった。
友里は、佐護の言葉が理解できた。が、理解したくなかった。
「……質問させて。」
「! いいよ。」
佐護は嬉しそうに友里の頭を撫でる。
しかし、友里の黒い瞳は、夜の海のように重く、冷たく、感情を写していなかった。
「6代目が、何て言っていたって?」
「……え?あいつは、一緒に遊ばないかって言っていたけど。」
「あそ、ぶ?」
良くわからないという表情で、佐護は友里を見る。長い黒髪が、さらりと佐護の手に触れてほどける。
友里の心の奥底を、何かがどろどろと融解していく。熱で浮かせて、溶かして、燃やしていく。
_____6代目は、
呼吸が浅く早くなる。
噛み締めた奥歯がギリギリと嫌な音をたてる。
鼓動が早くなっていく。
友里の心の奥底に発生した感情。それは、紛れもなく、殺意だった。
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