第63話
アスファルトの地面を蹴り、ゴミ箱を飛び越え、友里は佐護から逃げようとする。
が、依然距離は変わらないどころか、体力面から友里の方がだんだんと不利になっていく。
緑色に腐った水溜まりを踏みしめ、路地を曲がる。
______予定通りだけれどもこのままだとまずい……。
背後から時折聞こえる粘着質な奇声と破壊音を認識しながら、友里は路地を駆け抜ける。乱れようとする呼吸を整え、折れようとする心を叱咤する。
次の瞬間、友里はバランスを崩して転んだ。
「つぅぅぅかまえたぁぁぁぁぁああ!!!」
「っ!!」
背負っていた矢筒無理やり捕まれたらしい。バリッと嫌な音がして布製の矢筒が破れる。
矢筒から、矢がぱらぱらと落ちる。
佐護は、落ちた矢を一本踏みにじり、へし折った。
「……それ、高かったのだけれども。」
友里は思わず呟く。
ピクリと、眉をひくつかせた佐護は、動きを止める。
「えっ、あ、ああああ?」
混乱したような、恐怖したような、そんな感情から、佐護は口を歪める。
その様子に、友里は言葉を続ける。
「人のものを壊すのは、『悪いこと』じゃないの?」
友里の言葉を聞いた佐護は、発狂した。
「ああああ!?あああ"あ"っっごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!許してください許してください」
狂ったように謝罪をする佐護。
いっそ狂気的な佐護の様子に、友里は一瞬だけ怯むが、その場に崩れ落ち泣きながら謝罪をする佐護をその場に置いて、走り出す。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!お母さん、おがあざん!!許して、ゆるして!!もう、悪いことなんてしないからぁぁぁああ!」
真っ赤な瞳に涙と狂気をため、佐護は咆哮する。
友里は、思わず足を止めた。
そして、感情のない瞳を佐護にむけて、言う。
「いいよ。私は、あなたを許す。」
「あ"あ"あ……?いいの?いいの?」
涙をボロボロと溢しながら、佐護は弱々しい声で友里に聞く。
______この吸血鬼、多分サディストな訳ではない。どちらかと言うと、幼少期からの虐待による精神疾患みたい。
そう考えた友里は、佐護に背を向け、走り出す。
佐護は、呆然と友里の背を見つめ、冷たいアスファルトの上に座り込んでいた。
友里が完全に視界から消えた瞬間、佐護の目に、再び狂気が宿り、フラフラと立ち上がった。
佐護の口元は恍惚と歪んでいた。
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