第61話

「もしもし、名無しさん、今大丈夫?」


 無事家に帰ることのできた友里は、部屋にこもると名無しへ電話をかけた。


『ああ。仕事も終わったし、大丈夫だ。何かあったのか?』


 名無しは友里に返す。明るい声の名無しに友里は少しだけ安堵を覚えながら、口を開く。


「吸血鬼に、出会った。悪い子かどうか聞いてきたけど、心当たりはある?」


 友里のその声に、名無しは盛大にため息をついた。


『………恐らく、が『虐待趣味クソサド野郎』だ。絶対に近づくんじゃないぞ?』

「……フリ?」

『違う。』


 友里の声に、名無しは間髪いれずに言う。

 友里と名無しの会話は、叔母の由紀子が晩御飯の時間を告げるまで、穏やかに進んでいった。


 ◇◆◇


 塾帰りの少女二人は、帰りのバスを待ちながらおしゃべりをしている。

 日は既に沈みきり、半月と言うにはやや太り気味の月が空に浮かんでいる。


「えー、ほんとぉー?そしたら、本当にウザいじゃん。その、秋田友里っていう子。」


 塾の鞄を背負った少女が、隣にいる少女に言う。

 ショートカットの少女は、頷きながら隣にいる少女に言葉を続ける。


「本当あり得ないんだよその子。光國くんの隣に我が物顔でいるし、由紀ちゃんのも聞かないし。」

「あり得ない~。」


 そのときだった。

 暗がりに赤い瞳が煌めき、少女二人に弾むような、粘っこいような、声をかける。


「ねえ、ねえ、ねえ、ねえ。その悪い子のこと、もっと僕に教えてよ?」


「「え?」」


 キョトンとした二人は、赤い瞳を見ることは叶わなかった。

 二十才くらいの見目のよいパーカーの男性に話しかけられた二人は、少しだけ訝しげな顔をしながら、質問をする。


「お兄さん、何のようですか?」

「ああ、ごめんね。この辺に住んでいるのだけれども、君らの話が聞こえてきてね。親戚が小学生だから、ちょっと気になるな、と思って。」


 格好の良い笑みを浮かべるパーカーの男性に、二人は思わず頬を赤く染める。

 そして、ペラペラと友里の事を話す。


 パーカーの男性、『虐待趣味』は、ニコニコと微笑みながら、二人の情報を聞いていた。

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