第51話

______大人に助けを求めないと!


 由紀が連れ去られたところを目撃した友里は、ここから一番近い距離にある交番へと駆け込む。


「下里小学校の2年生の森田 由紀さんが、誘拐されました!犯人は黒いミニバンに乗っていて……」

「……なんだい、イタズラか?おじさんは、忙しいんだ。遊ぶんだったら、他所に行ってくれ。」


 冷静な声で現状を説明する友里に、交番にいた巡査は、面倒くさそうにそう言う。


「イタズラではありません。二丁目の郵便局の側で由紀さんが誘拐されたところを確かに目撃しました。偽造でしたが車のナンバープレートも覚えています。」

「そうかい、そうかい。しっかりと設定をしたのだね。」


 真剣な表情で伝えようとする友里に、巡査は生返事をする。友里の無表情が悪く働いてしまったようで、巡査はまるで本気にしない。


_____信用されていない……!!


 友里は思わず歯軋りをする。予想できる反応ではあったものの、ここまで取り合ってもらえないとは考えたくなかったのだ。


「誘拐犯が吸血鬼だったら、どうするつもりなのですか?」

「いいから、帰った帰った。遊ぶのだったら家にランドセルを置いていってからにしなさい。」

「……。」


 糠に釘、暖簾に腕押しの巡査に、友里は諦めて交番の外へと出ていく。


 そして、ランドセルの中から、スマホと一枚の紙を取り出す。


 ◇◆◇


 数コール後、電話は名無しに繋がった。


「名無しさん、今、大丈夫?」


 自分の名前すら告げず、相手の声も聞かずに、友里は名無しに話しかける。


『……ああ、友里か。大丈夫だが、急にどうした?』


 少しばかり気圧された名無しは、友里に言葉を返す。電話越しの、少しだけ変わった名無しの声が、スマホのマイクから聞こえてくる。


「同じクラスの、森田 由紀が、誘拐された。交番でそれを話したけれども、イタズラだと思われた。」

『……俺から、第三者の通報という形で、警察に電話しよう。何があったのか、詳細に教えてくれ。』


 名無しは疑問を挟むことなく、そう言う。

 友里は、由紀が誘拐された時の状況や、車の詳細な情報などを細かく丁寧に説明していく。


『……わかった。一回切るが、大丈夫か?』

「うん。私は私で、探してみる。」

『やめておいた方がいい。吸血鬼の噂は知っているのだろう?二次被害に遭う前に家に帰って親に説明をしておけ。』

「気をつけて。」

『おい友里、聞いて……』


 友里は電話を切ると、バッグの中からノートを取り出す。


 そして、一枚には黒いミニバンの絵を、もう一枚には下里町の簡易的な地図を描く。


_____車は、二丁目の郵便局の道を、上里町方面に逃走していった。かなり乱暴な運転をしていたし、印象に残っている人もいるはず。


 友里は、車が向かっていった方向へ走っていった。

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