第50話

 友里は半ばスキップで学校へと向かっていた。

 ピンク色のランドセルのポケットには、名無しの連絡先のかかれた紙片。


 それがあるだけで、友里の心拍数は上昇した。


 ◇◆◇


「あれ、友里さん。今日は機嫌が良いですね。何かあったのですか?」


 ご機嫌な友里を見て、光國が声をかける。


「うん。あった。」


 友里はそう答えて席につく。


「………え?」


 光國は思わずポカンとして口を開けた。

 友里は、笑っていた。


 ◇◆◇


 やたらに機嫌の良い友里に、児童たちと美咲先生は困惑していた。


 授業中も、本こそ読んでいるものの、教科書もノートも机の上に出している。

 体育も適当に休まず、きっちりと行ったのか、光國を凹ませていた。


「秋田さん、一体どうしたのだろうね。」

「おい、光國。何か、知っている?」

「分かんないよ。でも、何か良いことがあったみたい」


 休み時間は、友里の話で持ちきりだった。本人はそんな雑音など聞かずに本を読んでいる。


 美咲先生も、首をかしげていた。


 昨日は、自分でも酷いことをした自信がある。友里が教室に登校してきたら真っ先に謝らなくては、と思っていたにも関わらず、謎に機嫌の良い彼女。


_____昨日、何かあったのかしら……。


 美咲はかなり友里を心配した。


 ◇◆◇


 学校も終わり、友里はピンク色のランドセルを背中に、早足で帰っていく。


 そんな友里の瞳に、ある違和感が写りこんだ、


_____あの車、ナンバープレートがおかしい……。


 法廷速度をきっちりと守って運転されている黒いミニバン。友里は視線の先を少しだけ動かす。


「……!?」


 友里の上機嫌が一瞬にして凍りついた。


 道の先にいるのは、たった一人の少女だった。

 息を吸い込み、思いっきり大きな声を出す。


「森田 由紀!!逃げて!」


 ツインテールの彼女が、友里を大声に気がついて後ろを見る。


 しかし、遅かった。遅すぎた。


「きゃぁっ!?!」


 ミニバンの後部座席のドアが開き、流れるような動きで由紀を飲み込む。


「止めろ!」


 友里は大声で吠え、車の方へと駆けよる。

 しかし、後部座席の扉はピシャリと閉じられ、車は凄まじいスピードで走り去っていった。


 道端に、呆然とした友里と、薄汚れた排気ガスだけが暫く残っていた。

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